職員の読書日記 職員の読書日記

このページでは、職員の読書日記を紹介いたします。
発達協会の職員である私たちが、出会った本の感想などを紹介するページです。


第2回
「自閉症の子どもと家族の幸せプロジェクト
―お父さんもがんばる!「そらまめ式」自閉症療育」
藤居学 著/ぶどう社/2,100円

(社)発達協会 神谷指導室 髙嶋弘美(社会福祉士)
 発達に遅れを持つお子さんのお父さん、お母さんがどのような思いでいるのか、お子さんの子育てについてどのように考えているのか。療育に携わる私にとっていつも大きな関心事です。また、保護者の方から相談を受ける時、お子さんの家庭での生活をできるだけ詳しく、具体的にイメージすることが実生活に沿ったアドバイスをするのに大切だと思っています。そんな思いから、重度の自閉症を持つお子さんのお父さんが書かれた本書を手に取りました。
 冒頭は障害の受容の話です。著者は「子どもの障害を知って強いショックを受ける瞬間」を「ピリオド・ゼロ」と呼びます。その時の親御さんのショックは計り知れないものですが、一方で家族が一致団結して新しい未来を創っていく出発点でもある、と積極的な意味が込められたことばです。障害を受容し、前向きに取り組める段階に至るには、子どもと「関わる回数と時間の長さ」が重要だと著者は言っています。一緒に過ごしてこそ子どもの抱えている問題や苦労が見えてくるのです。また、「療育の現場は家庭、主役は家族」であるとも書いています。知識として得られる方法はあくまで一般論で、それを一人ひとり違う子どもに合うよう、設定をし直す必要があるからです。教材やコミュニケーションツールなどを自作して実践し、お子さんをよく見つめてきた著者だからこそ辿り着いた結論だと思います。
 では、具体的にどのように療育を進めていくのでしょうか。本書では、特に父親の役割を取り上げ、仕事で新しいプロジェクトを任された「プレイング・マネージャー」と例えています。子どもと関わる実務をこなしながら、療育のビジョンや具体的な目標を整理する、行政機関など外部環境との調整をする、チームのメンバーである母親を支える存在です。大変な仕事だけど家族の幸せにつながる、自分にしかできない仕事だからこそやりがいがあって自己実現につながるのだと言います。
著者と同じようなやりがいを感じている保護者に、私も出会ったことがあります。例えば、家庭で熱心に取り組まれ、療育を卒業していかれた保護者の方々です。「親子で取り組み達成する喜びは、オリンピックで金メダルを取るような喜び」「子どもと一緒に親が強くなれた」と語るお父さん、お母さんからは、充実と自信に満ちた印象を受けます。子どもの成長はもちろんのこと、子育てを通して成長した自分自身に満足している、そんな保護者の方々の姿は感動的で、私に元気を与えてくれます。
 後半ではABAやTEACCH、絵カードを使った療育法について、理念や方法が紹介されています。また、パニックへの対応、絵カードでのコミュニケーション、教材の作り方など、著者の経験に基づいた、具体的ですぐに実践できる子どもとの関わり方も盛りだくさんです。親御さんにも専門家にも役立つ一冊になっています。

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