5月号 規則正しい生活 前回は「充実した生活」について書きましたが、今回も、話題としてよく出てくる「規則正しい生活」について考えてみようと思います。 ■ S君の場合 S君は年少さん。保育園に入ったばかりのダウン症のお子さんです。最近になってくつを履いて外を歩けるようになったばかりで、毎日お母さんが抱っこして保育園まで連れてきます。朝は苦手で、お母さんから保育士さんにバトンタッチされても、しばらくはボーっと座り込んでいて、放っておくとそのまま二つ折りになって寝込んでしまうので、周りの人が声をかけたり手をとって動かしたりと、眠らないように注意しています。午前中はそんな感じですが、給食の準備あたりから活発になってきて、お昼寝では逆に眠らず、保育士さんがひとりついて別室で遊んでいる状態です。夕方お迎えに来ても遊びたくてなかなか帰らない毎日です。共働きなので早寝早起きが難しいことはわかりますが、S君のことを考えると、あと一時間くらいは早く布団に入ってほしいと保育士さんたちは嘆いています。 このようなことはよくあると思いますが、ここで「早寝早起き」を始めとする規則正しい生活の効用について、説明するつもりはありません。これとは逆に「規則正しい生活」を金科玉条のように守りすぎる例を紹介したいと思います。 ■ R君の場合 R君は自閉的な傾向の強い小学校四年生の男の子です。心障学級に在籍していて、教科によって普通学級に通っています。R君のお母さんは、専門書や雑誌を読んだり、講演会を聞きにいったりして、そこで得た知識を担任に伝え指導を話し合うなど、療育熱心な親御さんです。R君は幼い頃から、このお母さんが中心となって育ててきたので、周りの人からしっかりしていると言われています。 ■ 「規則正しい生活」は善か悪か? 私たちは、一般論として「規則正しい生活」が良いと親御さんにアドバイスすることが多いですね。自分が規則正しい生活をしていなくても、S君のように子どもが遅くまで起きていたり、朝遅くまで寝ていて朝食も満足にとらずに学校に行っていたりということを聞くと、やはり注意せずにはいられません。 |
6月号 食事を楽しむ ■ 楽しければよいのか 最近「食育」ということばをよく耳にします。ちょっと前に「個食」ということばも盛んに言われていましたが、その反省から出てきたことばなのかもしれません。「食べることを通して子どもを育てていこう」という考えですが、その基本にあるのは「みんなと一緒に食事を楽しむ」ことだと思います。しかし、楽しければそれだけでよいのか、という疑問が私にはあります。また、楽しいのは誰か? 本人だけでなく、周りの人も楽しめているかということも、問題になると思います。 ■ E君の場合 E君は幼稚園の年長さん。就学を控えて、もう一度身の回りのことをチェックしようということになりましたが、ここで食事の問題が出てきました。幼稚園では、ハンディを持っている子には、無理にお箸を使わせなくてもよいという方針で、E君もスプーンやフォークで当たり前のように食べていました。また、嫌いなものは特に食べさせなくてもよいということもあり、好きなものを選って食べている状態でした。小学校に入れば、給食があるので苦労するのは目に見えています。お母さんも焦って指導を始めましたが、今まで嫌いなものは食べなくても許されていたので、急に食べろといわれても素直に応じるわけではありません。食事のたびに険悪な雰囲気になるので、お父さんが我慢できなくなり、食事指導中止を宣言しました。お母さんからの相談を受けて、お父さんになぜ今食事指導が必要なのか、大きくなった人の例を織り込みながらお話をし、協力してもらうことになりました。もともとできる力を持っていたこともありますが、家族ぐるみの取り組みで、偏食だけではなく、お箸を使うこと、食事のマナーなども順調に身についていきました。 ■ ハンディがあっても お箸が使えないからスプーンやフォークでよい、それも難しければ手掴みでもよいのではないかとアドバイスされることがあります。発達的には、道具を使う以前に手を使う時期があり、その時期に手や口をしっかりと使うことで、道具も上手く使うことができるようになる、といわれています。しかし、私たちのところで育っていった子どもたちを見ていると、必ずしもこの発達の道順でなければならない、というわけではないように思います。むしろ年齢にあった食事の技能を身につけることが将来的には大切で、それは指導の工夫で可能だと思います。みんなと食事を楽しむためには一定のルールが必要です。それがひとりで難しければ他の人の助けを借りるにしろ、マナーに添った技能を身につけることで、みんなの中で楽しく食事をすることができるようになると思います。周りの人の譲歩だけを要求する生活は、いつでも、どこでも、誰にでも受け入れられる、というものではありません。 「楽しい食事」は、最終目標です。それは簡単に身につくものではありません。身につけるまでは大変ですが、世間で許されている年齢のうちに、食器具の扱いやマナーを教えておくことは大切なことではないでしょうか。 |
7月号 「お・しつけ」
■ T君のお母さんの場合 T君は小学校四年生の男の子。特殊学級に通っています。お母さんは子育てに熱心で、T君を学習の補習塾を始めとして、リトミック、そろばん、和太鼓、体操教室など、様々な習い事に通わせています。これだけいろいろなところに習いに通わせているので、家でのしつけもしっかりやっていると思っていました。 ■ 家庭のルール作り その後T君のお母さんとは、以下のような話をしました。T君が社会で生活をするためには最低限のルールは守れるようにならなければならないこと。集団生活は、自分ひとりで生活をするのとは違って、何でも自分の好きにできるわけではないこと。ルールを身につけていないことによって社会からはじき出されてしまうこともあること。自由というのは何でも好き勝手にできることではなく、ルールという一定の範囲の中で、自分で考えて動くことができることであるなどなど。 しつけに限らず、子育ての方法について、いろいろな考え方が情報として流れていますので、親御さんがどうしたらよいのか迷ったり、自分のやり方に自信をなくしたりしてしまうということもわかるのですが、私は、しつけは親の価値観の「おしつけ」でよいと考えています。 |