ADHDへの理解と対応

ADHDとは   AD/HDとはなにか、わかりやすくご紹介します。

 

■「の」の発達と、自分と他者の分離

 コミュニケーションというものは常に自分と相手(他者)があってはじめて成り立つものです。今回は「の」ということばの獲得と関連付けながら自他の分離というものを考えていきます。

●自己修正する力を育てる

■…育てたい自分の考え、自分の意見

■…間違った考えを支持する世界

■…考えを修正できる力(上)

■…考えを修正できる力(中)

■…考えを修正できる力(下)

●子どもの集団を考える

■…仲間が変える力

■…感情のコントロール力と集団の力

■…子ども集団と同調圧力

●判断基準を育てる

■…変えたい気分での判断(上)

■…変えたい気分での判断(中)

■…変えたい気分での判断(下)

●道徳への意識を高める

■…大事・大切と思う気持ち

■・・・道徳がわかりにくい子・守れない子

●問題行動への対応法

■…「ちょっかい行動」とピンポンダッシュ

物事の優先順位がわからない

■ひとを非難する(上)

■ひとを非難する(下)

「いたずら」チック

●子どものほめ方・認め方

■ルールのある集団と気持ちの安定

■「ありがとう」と「笑顔」

●反抗について

■ 母親の言うことをきかない〈反抗挑戦性について〉

■ 反抗挑戦性といくつかのタイプ 

■ 「ごめんなさい」と悪意の有無

■ 悪意にとる子と「ふざけっこ」の効用 

●競争意識について

■ 競い合いの気持ちとその役割 @

■ 競い合いの気持ちとその役割 A

■ …高めたい「上達欲求」

●好き−嫌いの気持ちについて

■ 「拒絶」は「混乱」ととらえる

・・・「好き」と気持ちの確認

「誰が決めるのか」を教える

「大人が決めるべきこと」と「子どもがきめていいこと」と

●原因・タイプについて

■…ひとりの子の中に同居する

タイプで変わる課題と対応

■ その原因と3つのタイプ

●その他

■…「前思春期」と「自分ぼめ」

■…AD/HDの子とテレビゲーム

 


■「の」の発達と、自分と他者の分離

@園からのお帰りの時に泣いて騒いでぐずる子。お母さんを叩いたり蹴ったりして怒りを表現。(4歳男子) A園の子や母親だけでなく、公園でも見ず知らずの子に抱きつく子。(5歳男子)
B「入れて」って言ったのに、入れてくれないといって乱暴する子。(小1男子)
C「かして」と言いながら、おもちゃを妹からひったくる兄。(小4男子)
…これらは、ADHDと診断されている、またはその傾向があるとされる子たちのエピソードです。  これらの行動は、子どもの誤解から起こっているとも言えます。助詞の「の」への理解の高まりと関連づけながら、その誤解が何なのかを考えていきます。


●所有や区別を表す「の」

 「の」は、「〜ちゃんの!」「ママの!」ということばで表現されはじめます。一般的には2歳前後から聞かれるようになります。他の子をお母さんが抱いたりすると、怒ったり泣いたりする姿が見られるのはこれよりも前です。「自分の人、物」という意識は、ことばよりも先に生まれ、それは行動で表現されます。
 「〜ちゃんの」の誕生は、子どもが「自分の」と「他者の」人や物の存在を理解しはじめたことを示します。所有物という認識がしっかりとし、あわせて人や物を所有という要素で「区別できるようになる」とも言えます。
 一般的に2歳前後から、他の子に「見せて、貸して」と言う姿も見られるようになります。ところがこの段階では、「見せて、貸して」と言うものの、相手から絵本やおもちゃを強引に奪ってしまいがちです。

●役割や仕事を示す「の」

 先日、保育園に伺った時のこと。3歳の男の子が、同じ年齢の女の子に、「いっしょにネンネしよう」と誘っていました。彼は、ママがしてくれるように彼女の膝を枕にして寝たいようでした。男の子が何度も求めるので、女の子は「いいよ」と言って膝枕にしてあげました。しばらく経つと女の子は「頭が重いからいやだ」と言いだしました。しかし男の子は、一度手に入れた膝枕の権利を離そうとしません。結局、女の子が泣いたので先生がやってきて、2人は離されました。
 この子たちには、2歳の頃の「貸して」と言いながら奪いとる姿はありません。子どもは3歳前後から、何かをしてもらいたい時には、相手の承認が必要と考えるようになります。
 所有を示す「の」の次には、子どもは「役割や仕事」の区別もできるようになってくると言えます。それまではまとわりついて、料理の邪魔をするような子が、「ママのお仕事」と話すと離れられるようになってきます。

●決定権への誤解

 さて冒頭の話に戻ります。@の子どもは、「帰るかどうかを決めるのは自分」だと思っている可能性があります。だからお母さんが「お帰り」を促すと怒ってしまいます。決定権は自分にあると思っている「帰りグズ」の子に多い誤解とも言えます。この子に対して保育園では「先生のお仕事」や「先生が決めること」を、1つひとつきちんと話すようにしました。はじめは「先生が決めます」と言ってもチンプンカンプンだったそうです。そのうちに「先生が決めるの?」と聞いてくるようになったそうです。
 Aの子どもも同じです。抱きついていいかどうかを決めるのは相手だということがわかっていません。そういう子への対応ですが、抱きつきを全面的に禁止するのもひとつの手です。ただ抱きつきは人を求めての行動で、発達に根ざした欲求かもしれません。そうであれば、禁止してもやみません。抱きついていいかを必ず確認させる、時には「ダメ」と伝え、いつも叶うものではないことを教えたほうがよいでしょう。
 B、Cともに、相手が決めるということをわかっていないと言えます。日常生活のなかでも、決定権への誤解を解くように、繰り返し話していく必要があります。

●なぜ理解がスムーズに進まない?

 「いってらっしゃい」なのに、相手のことばの「いってきます」を言う子。「ちょーだい」ではなく、「どうぞ」と言いながら相手からおもちゃを取ってしまう子。これらの姿は、二歳前後の子どもには普通に見られる現象です。自他の区別が、はっきりとしていない姿と言えます。それが二歳半ばを過ぎると区別ができはじめ、言い方の間違いが減ってきます。
 子どもは「〜ちゃんの!」と主張しながら、自分と他者の違いを明確にしていくのでしょう。ところが行動やことばに問題がある子の場合、「〜ちゃんの!」と主張する姿がなかなか見られません。ある面で「欲張り」ではないと言えます。このために「自他の区別」が進まず、所有や役割への認識が曖昧なままになるのでしょう。それが決定権への思いもよらない誤解につながっていきます。

●所有物や役割を明確にしていく

 「〜ちゃんの」がなかなか出ない場合は、自分と人の物をはっきりと区別させたいものです。たとえばおかずは大皿から勝手に取るのではなく、小皿に取って自分と人のおかずを区別しておくほうがよいでしょう。お手伝いも、自分と人の役割の違いをわからせるよい機会になると思います。
 すでに誤解している子には、「決めるのはママ」「先生のお仕事」と話をし、誤解を解くようにします。なお子どもには、2〜3語文でコンパクトに伝えたほうがよいでしょう。だらだらと話をすると、耳に入らない可能性があります。
 「の」はこの後、「自分の気持ち、人の気持ち」の理解へと進み、その後は「自分の考えや人の考え」にも気づかせてくれるようになります。


■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

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