ADHDへの理解と対応

好き−嫌いの気持ちについて

・・・「好き」と気持ちの確認

■ 「拒絶」は「混乱」ととらえる

「大人が決めるべきこと」と「子どもがきめていいこと」と

「誰が決めるのか」を教える

  
・・・「好き」と気持ちの確認
「好き―嫌い」の時期に入ると、子どもの「好き」という気持ちを受け止めることが大事になります。というのも、「好き」という気持ちが、興味や活動の世界を広げ、意欲を持って物事に取り組む原動力となるからです。

好きが広げる子どもの世界
 いろいろな面へと広がっていく「好き」という気持ち。この気持ちは、「好きな子ができる」ことで、一段とはっきりしだします。好きな子ができると、その子と同じことをやりたがり、また同じ所に行きたがったりします。苦手だったことでも、好きな子と一緒だとやれたりします。例えば、ピーマンが嫌いな子が「○○君も食べたから」と、今まで嫌がっていたのがうそのように食べたりします。
 また、好きな子が相手だと、がまんできるようになり、ルールなどを守れるようになります。悪いことをしたら「ごめんなさい」と謝り、「ありがとう」とお礼を言えるようにもなります。

盛んになる気持ちの確かめ合い
 「好き」の気持ちがはっきりしだすのとあわせて盛んになるのが、お互いの気持ちの確かめ合いです。遊びながら、子ども同士は互いに、「楽しいね?」「好き?」と、ときにはうるさいほど相手にたずねます。しかし、たずねられた相手は、さほどうるさそうではありません。何度も何度も答えたりしています。お互い様だからかもしれません。
 このような姿を見せだす理由ですが、主には二つあるのではないかと思います。ひとつは、「好きの時代」の前にある反抗期、つまりは「自分が絶対」という時代があるためです。

不安を抱える自我
 子どもは、自分=絶対の時代を抜ける前後から、まわりに確認を求めるようになります。大人には「やっていい?」、子どもには「入れて」「かして」とたずねだします。自分の判断が「揺るぎないもの」から、「相手まかせのもの」になっていくとき、子どもの自我は不安を持つようになるのでしょう。この時期には、お絵かきやお手伝いなどで「ほめられること」をしたがるようになります。このように、大人からの承認を求めたがるのは、不安の現われではないかと思います。(お手伝いなど、ほめられることをしたがるのも長続きはしません。小学生になると、不服タラタラとなったりします。これは、ほめてもらいたい相手が、大人からほかの子たちへと移るからと思われます。この時期からは、仲間の子どもたちが喜ぶことをしたがります。)
 遊びながらの気持ちの確かめ合いも、不安のひとつの現われと思います。相手の気持ちは、見えるものではありません。だから、どのように感じているか、ことばで確認しなくてはいられません。

感情を知る力を高めるために
 ところで、確かめ合いを繰り返すことで、子どもは人の気持ちを読み取れるようになり出します。もともと、子どもの感情センサーの精度は低いのでしょう。それが、子ども同士で「楽しいね」「好き?」とことばでたずね合い、また答えてもらうことで、センサーの感度、精度ともにレベルアップしていきます。確かめ合いをするもうひとつの理由は、相手の感情を正確に感知するための、いわば訓練のためと思います。

一方的な関わり方
 3歳前後から強まってくる、「好き」にまつわる発達の姿を長々と書きました。
 多動な子どもたちも、年齢はマチマチだったりしますが、好きな子ができてきます。この時期に入ると、好きな子と一緒にいたがり、遊びたがるようになります。好きな子の名前を、しきりに言うようになる子もいます。
 ところが、その関わり方は一方的のように見えます。相手のペースに合わせることが苦手で、自分勝手に行動してしまいます。一緒に遊びながらも、ルールがなかなか守れません。
 その理由のひとつに、この気持ちの確かめ合いも含め、確認することの不足があるように思います。相手に確かめずに行動するから、衝動的に見えてしまいます。

 ある園で出会ったのですが、5歳のAD/HDの子は、「名前を教えて」と言うと、「うるさいな」との返事。彼は、男の子たちとの「戦いごっこ」が大好きです。遊び方を大声で言い張り、まわりに押し付けます。遊んでいる最中は、「バシッ」「死んだ」などのことばばかりです。
 遊びが一段落した頃に、「楽しかった?」とたずねました。するとまた「うるさいな」です。彼の遊びは、仲間との楽しさを求めてというよりも、あたかも自分が興奮することが目的のようでした。このような彼に、まわりの子どもたちはついていけなくなり、段々と距離を置くようになりました。そのことが、彼の八つ当たり的な乱暴をたびたび起こさせ、それが先生たちの悩みでした。

もっとも大切なこと
 彼にはまず、会話は「かわりばんこ」であることをわかってもらう必要があります。大人も一方的命令ばかりでなく、日常的に彼の気持ちをたずねたいものです。こうやって、相手の気持ちなどの確かめ方を身につけてほしいからです。これらができないと、彼の他の子たちへの乱暴はなかなか消えないといえます。
 特に、まわりとトラブルばかりのいま、彼の不安も強まっているようでした。お手伝いなどをさせ、ほめることで彼の存在を認めることこそもっとも大切、と園の先生たちにはお話しました。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会)言語聴覚士・小倉 尚子(発達協会)言語聴覚士

  
「拒絶」は「混乱」ととらえる
 子どもは本来的には「好き」な気持ちが強いものですが、AD/HDの子のなかには、「嫌い」をはっきりと表現する子も多くいます。また嫌いだから、と言いながらやろうとしない子どもがいます。
  これに対して大人は、「嫌いだからやらない」「仕方がない」と思ってしまいがちで、ますます子どもは、「やらない理由」として「嫌い」をあげるようになります。嫌いなことが多いことは、体験を通して、いろいろなことを学ぶチャンスを奪うことにもなります。子どもがやろうとしないのは、「嫌い」ではなく、「苦手・気が向かない」と理解したい、とも述べましたが、このためには、大人の配慮・工夫も必要となってきます。

 

「好きになる」ことへの促し
 お母さんによれば、Bくんは嫌いなこと、面倒なことはやらないとの話でした。
 このような子が本当に多いのですが、対応の基本は、本人がいまは「嫌いと思っていること」を「好き」にしていくことです。実際には「嫌い」というよりも、「うまくできない=苦手」意識のためにやろうとしない子が多いように思います。「食わず嫌い」ということばがあります。嫌いと言ってやろうとしない子どもを目の前にすると、このことばが頭に浮かんできます。子どもの「嫌い」は、できるようにしてほしいとの悲鳴のようにも思えます。

乗り越えられたことをほめる
 対応で有効な方法のひとつは、「(嫌だけどがまんして)○○したら、(好きな)△△ができる」との約束をすることです。このようにすると、子どもは自分の思いを乗り越えて、やろうとする気持ちを強めます。この方法の本当の目的は、たとえやりたくないことでも、自分で乗り越えられたとの体験をさせることです。このことで、嫌いなことでも自分はやれるという自信を育てていきます。

 大人は、約束を必ず実行するようにします。約束が守れなかったのに、子どもの要求が激しいからと好きなことをさせてしまうと、結果的には子どもに振り回されてしまいます。ここで大人が安易に妥協してしまうと、「何でも自分の思い通りになる」と学んでしまう可能性さえあります。
 当然ですが、きちんと約束を守れたときには、たくさんほめてあげましょう。その際には、「前はできなかったのに、上手になったね。」「おにいさん(おねえさん)になったね。」と、以前と比べてできるようになったこと、上達していることを強調するのがポイントです。

気が向かないこととお約束
 Bくんには、まずは「生活の流れ」を意識させようと考えました。生活に見通しを持たせるために、一日のスケジュールを紙に書いて、貼り出すことにしました。Bくんの好きなことと、やりたがらないことがなるべく交互になるように、Bくんとお母さんとで話し合いながら決めました。Bくんが幼稚園から帰った後のスケジュールは

2:00 おきがえ
     ようちえんのコップとおてふきをあらう
2:30 ゲーム


というものでした。

 スケジュールを貼り出した最初の日、Bくんは幼稚園から帰ってくると、早速ゲームをやろうとしました。お母さんはその手を止めて、「帰ってきたら何をするんだっけ?」と、スケジュールを見せます。Bくんは「わかってるよ! あとでやるよ!」と言って、すぐにゲームを始めようとします。お母さんも負けずにゲームを取り上げ、「帰ってきたらやることがあるよ。やったらゲームを返してあげます。」と、毅然として言いました。 ゲームを取り上げられたBくんは大暴れ。けれどもお母さんは譲りませんでした。結局この日は、騒いでいたためゲームをする時間がなくなってしまい、Bくんは一日中文句を言ったり、泣いたりしながら過ごしました。

 そして次の日、この日お母さんは、Bくんがゲームを取り出す前に、ゆっくりと話して聞かせました。 母「昨日はゲームをやれなかったよね。ゲームは好きだよね。でも、どうしてやれなかったの?」 B「おきがえと、あらうの、やらなかったから。」 母「今日はどうするの?」 B「やる。」 母「じゃあ、終わるまでゲームは預かっておくね。終わったら教えてね。」

 そして、お母さんはBくんの様子を見守りました。ときどき声をかけながらですが、Bくんは何とかやり終えることができました。  「おわったよ! ゲーム!」と言うBくんに、お母さんは、「昨日はできなかったのに、今日はよくがんばったね。おにいちゃんになったね。」とほめました。Bくんが、「かんたんだよ。おにいちゃんだもん!」と言ったのには、お母さんも思わず笑ってしまいました。

「嫌い」と言われたときには  「嫌い」と言われた場合、大人は一貫した態度で「ダメなものはダメ」「やるべきことはやる」と教えたいものです。もちろん子どもの気持ちを、一度は受け止める必要はあります。ただ子どもの気持ちに合わせすぎると、相手に合わせることや社会のルールを学んでいくことができにくくなります。  何よりも大人は、子どもが拒絶的なときには、混乱しているのだととらえたいものです。それを踏まえ、子どもに社会で生きていく上での適切な判断を示してあげるようにします。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会)言語聴覚士・小倉 尚子(発達協会)言語聴覚士

  
「大人が決めるべきこと」と「子どもがきめていいこと」と
年齢が上がってもなお反抗的な態度が続くのは、2〜3歳ころの反抗期の時期を長く引きずっているか、あるいは反抗期が遅くなって現われたために、2〜3歳のころとは違って屁理屈をこねたり、また力も強くなってくるので問題が大きくなってしまう場合が往々にしてあるようです。

 A君は、好きなことには積極的になってきた反面、何でも自分の思う通りにやりたくて、気に入らないと「いやだ! やりたくない!」と拒否します。お母さんが指示をすれば屁理屈をこねて言い返し、そうなってしまうとすんなりと言うことなど聞きません。あまり自己中心的な物の言いように、ついにはうんざりしてしまい、お母さんは、結局感情的になって怒ってしまうことも度々だそうです。
 こうしたA君の態度は、おそらくこの2〜3歳の反抗期の問題であるだろうと思われました。

望ましくない対応
 しかしなぜAD/HDの子ども達は、この反抗期をスムーズに乗り越えることができないのでしょうか。
 毎日の生活リズムが整い、身の回りのことが自分でできるようになってくる2〜3歳のころになると、「自分で〜」という気持ちが強まってきます。ただ、まだこの時期は周りの状況や相手の思いなどを考えに入れることができません。何でも自分でやっていい、決めていいと思い込んでいるところが難点です。そこで大人は、自分勝手に決めてはいけないことを教えていきます。
 しかし、このときの対応としてしばしば見られるのは、細かなことはいちいち口うるさく言うのに、肝心なことには結局子どもの言いなりになってしまうパターンです。例えば、食事の場面で、食べ方について、あれこれ注意をしているのに、一方で「買ってー」とせがまれるとお菓子を買ってあげてしまう、ということはよく見受けられることです。
 また、言うことを聞かせようと思うあまり、「〜あげるから、ちゃんと〜するのよ」と先に子どもの要求を聞いて、何かをあげてしまうパターンもあります。もらってしまえば子どもはやる必要性がなくなり、約束も忘れてしまいおおむねやろうとしません。
 さらには「〜しないと〜してあげないからね!」と脅しで動かそうとするパターンもあります。本当にその通りに実行されれば子どももマズイと気づきますが、子どもが守れそうもないことを言ってしまうと、結局は子どもはできません。このために、できない自分を認めたくなく子どもは約束を軽視せざるをえなくなります。
 いずれのパターンも、子どもから見れば大人は口うるさいだけで、無理なことを言い、最後は言うことを聞いてくれる存在であると勘違いしかねません。これは一般の育児にも言えることですが、AD/HDの子にとってはさらに、こういう対応が、自分は正しいと思いこませるのでしょう。それが反抗期を長引かせてしまう一因になってしまうのではないかと考えます。

大人が決めるべきことと、子どもが決めていいこと
 自分でやりたい気持ちが高まっているこの時期には、ある程度子どもに任せてみることも大事です。例えば先ほどの食事の場面で言えば、どれを食べるか、どの順番で食べるか、などは子どもの好きにさせてもいいでしょう。
 しかし、食事の場所を離れて立ち歩いたり、だらだらと食べていて時間がかかってしまったり、食事を食べないくせにお菓子ばかりを欲しがったりした時は、大人がきちんと制する必要があります。大人はまた、社会の約束事ともいえる場所や時間、お金等に関連することについては、主導権をもって決定していかなくてはいけません。子どもが好きに決めていいのは大人が決めたその範囲の中でだけ、と話をしましょう。この境界線がはっきりせず、時には大人が決めるべきことと子どもが決めていいことが逆転してしまうと、子どもはどこまで許されるのかがわからなくなります。さらに進めば、ますます自分勝手に振る舞うようになってしまいます。

A君への対応
 さてA君は、お手伝いについては喜んでやるようになりました。しかし何をやるにしても自己流で、「こうしたら」とアドバイスしても聞き入れようとしません。下手に口出ししようものなら、機嫌を損ねてしまうか大声を出して反発し、途端に「やめた!」となってしまいます。やる気を失わせては、とお母さんは知らず知らずのうちに彼の言うことに合わせてしまっていたようでした。そこで、近くのいとこがお小遣い制を導入したことを契機に、やや早いかと思いつつ、同じようにすることにしました。お手伝いが上手にできたら1回10円のお小遣いをもらえることにしました。これにはA君は張り切りました。もともと何でも欲しがる子でしたので、「じゃ、あれもやる、これもやる」とあれこれやってくれようとしました。
 しかし、自己流にしてしまう点は相変わらずです。お小遣いがもらえるとあって、今度はたくさんこなすことばかりに気がいき、雑になってしまったり、時と場所を考えず、むやみにやろうとしたりしました。そしてお母さんにお小遣いを要求してきます。
 お母さんには、こうした場合にはお小遣いを与えない、もしくは減らすようにしてもらいました。これにはA君は大怒り。3人で話していると「何でくれないんだよ!」「何で先生が口出すんだ」「小遣いくれないんだったら、もうお手伝いなんかやらないからな!」彼はひっくり返って怒鳴りました。そしてお母さんのお財布を奪い取ろうとします。「お金はお母さんのだから、勝手に取っちゃだめ!」と止めました。すると「先生のお金じゃないのに、何で先生が決めるんだ!」と叫びます。
 そこでA君には、このように説明しました。「先生のお金じゃないから先生は取らないよ。でも、A君のものでもないよね。だからA君が取ろうとしたから先生は止めたんだよ。A君が取ろうとしなければ先生もやめるよ」。A君は自分の非がわかったのか黙り込みました。
 さらにこう付け加えました。「何のお手伝いをするかは、家の中の大事なお仕事だから、お母さんが決めます。お母さんのいうことに従えなかったらお小遣いはもらえないよ」。A君は憮然とした表情になりました。けれど少し納得した様子でもありました。なお、お金があれば自分の思い通りに何かを買えます。自分で決められるという全能感のためかお金に執着する子もいます。何でも買っていいのではないと、あらかじめ釘をさしておく必要があります。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会)言語聴覚士・田中 亜古(発達協会)社会福祉士

  
「誰が決めるのか」を教える
 生活リズムを整えることは、子どもの精神を安定させ、これからの学びを盛んにする地盤を作っていきます。身辺の技能を学ぶことを通して、多動な子達は自己コントロール力を高め、「ぼくも(わたしも)できた!」という自信をつけていきます。小さな自信の積み重ねが、「自分でやろう」という自立への気持ちを育んでいきます。

「自分で…」という気持ちと勝手な行動
 A君も小学生になりました。「入学までに身辺の自立を」と、お母さんが熱心に取り組んだ成果で、身の回りのことは一通りできるようになりました。気が向いたときはお手伝いも自分からしてくれるとのこと。お母さんは、「自分で…」という気持ちが育ってきたと喜んでいました。
 ところが、ひとりでできることが増えてくると、お母さんの言うことを聞けない場面も多くなってきました。お料理を手伝ってくれるので、やり方を教えようとしても「ひとりでできるよ!」と聞き入れなかったり、買い物に行くと、勝手に欲しい物を籠に入れたり。初めは、せっかく育ってきた自主性をつぶしたくないと、お母さんは大目に見ていました。しかし何でも自分で決めたがり、自分勝手な行動もエスカレートしてきました。学校の先生からも「先生や友達の言うことを聞こうとしません。授業中も、自分が指されないと怒ってしまいます。」と言われてしまいました。お母さんは、落ち着いてきたと思ったのに、また退行してしまったと落ち込んでいました。

「反抗期」を乗り越えられない子ども達
 2〜3歳ころに見られる反抗期では、「自分で…」という気持ちが高まります。この時期、実際に身辺技能をはじめとし、さまざまなことを急速に獲得していきます。この「自分で…」という気持ちこそが、新しいことを学ぶための原動力ともいえます。ただこの時期は、自分の経験や自分の思いにもとづいた一面的な判断しかできません。周りの状況や、相手の思いなどを考えにいれることができません。この一面的な判断と、「自分で…」という強い思いが合わさって、しばしば大人の言うことが聞けなくなります。 
 ただ大人にとっては、とても扱いづらいこの反抗期ですが、技能の獲得だけでなく社会性の面でも重要な意味を持っています。たとえば、大人に注意されたり、自分の思いが通らなかったりといった経験を通して、人は必ずしも自分と同じ考え、思いではないことを学ばせてくれます。いわゆる、自他の分離が促されます。まわりとぶつかりながら、人の表情を読み取ることや、「〜していい?」と尋ねることを学びます。これが、相手とコミュニケーションを取る必要性を生みだします。しかし、AD/HDの子達は、この反抗期をスムーズに乗り越えられず、しばしば反抗挑戦的な言動が続きます。

誰が決定権を持つのか
 多動な子ども時代を送った青年達と話をしていると、おおむね共通する心理があります。それは、「他の人と自分は同じだ」と思っていたことです。何でも仕切ろうとする多動の子は多いのですが、相手と自分の考えが同じだと思っていれば、話し合いの必要はありません。話はとびますが、スターに多動な人が多いのも、「同じ」という気持ちがファンとの一体感を生みだすからなのかもしれません。
 さてA君ですが、退行したのではなく、この反抗期にいると考えられました。基本的な対応としては、「自分でやりたい」気持ちは尊重しつつ、いつも自分の思いが通るわけではないことを学ばせるようにしました。具体的には、自分で決めていいことと、大人が決定権を持つことがあることを教えていきました。
 たとえば、おもちゃで遊ぶときに、何で遊んでいいかは子どもが決めていいとします。ただ、「どこで」「何時まで」遊ぶかは大人が決めることとします。決定権が誰にあるのかを、さまざまな場面で整理しながら明確にしていきます。こうやっていくと、自分で何でも決めていいのではないことがわかってきます。自分と他の人は、思いや考えに違いがあることも学びます。ただ、最初はスムーズにいかず、思い通りにならないと激しく騒ぐことでしょう。「泣いても山は動かない」という気持ちで、大人が毅然とした態度を取り続ける必要があります。決定権のことがわかってくると、反抗期から抜け出せ、「これでいい?」とまわりに確認を求めるようになります。

三つの約束
 反抗期のA君。家庭生活で一番困っていることをお母さんにうかがうと、「買い物のとき、自分の欲しいものを勝手に籠に入れてしまうこと」でした。しかし良く聞いてみると、買い物は全部お母さんがして、A君はついて歩くだけだとのこと。これでは、「自分で」という気持ちの高まっているA君にとっては退屈です。自分も、お母さんの真似をしてみようと思っても当然です。そこで、籠を持つことにさせその上で、「買い物の約束」を決めました。
@お母さんと一緒に歩く
A勝手に品物に触らない
B頼まれた品物でも、お母さんに「これでいい?」と聞いてから入れる
の三つです。三つとも守れたら、ごほうびに欲しいものを一個買っていいことにしました。
 A君は籠を持たせてもらい、上機嫌で品物を探しています。「今日の買い物は無事に終りそうだ」とお母さんが安心した頃、お菓子売り場のそばを通ると、A君は急に駆け出し、欲しいお菓子を持ってきてしまいました。お母さんは残念に思いながらも、「約束を守れなかったので、ごほうびはなし。」と話しました。するとA君は「買って! 買って!」と大騒ぎ。お母さんは、人目が気になり、何度も買ってあげようかと思いましたが、ここでくじけては、騒げば思いが通ることになってしまうと、がんばりました。結局、買い物を続けることはできず、A君はお母さんに引きずられるようにして、家に帰りました。
 しばらくしてA君が落ち着いた頃、もう一度話してみました。A君は「買い物したい」と言います。そこで約束をし直し、もう一度買い物に行くことにしました。今度は勝手に品物を触ることなく、買い物を終えることができ、ごほうびを買ってもらえました。ごほうびのお菓子と買い物袋を大事そうに持つA君は、とても頼もしく見え、お母さん自身も反抗期のA君への関わり方に自信が持てるようになったそうです。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会)言語聴覚士・小倉 尚子(発達協会)言語聴覚士
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