ADHDへの理解と対応

競争意識について

■ 競い合いの気持ちとその役割 @

■ 競い合いの気持ちとその役割 A

■ …高めたい「上達欲求」

  
競い合いの気持ちとその役割 @
「好き」という気持ちが強まってくる時期を越えると、子どもたちは「競争時代」ともいえる時を迎えます。たとえば、車に一番に乗り込もうとしたり、食事で誰よりも先におかわりをするなどの姿を見せたりします。子どもだけでなく、大人とも競い合い、勝ち負けにこだわります。この時期は、一般的には4歳前後から始まります。

 

「競争」に関心を持てない子
 ところが「競争」に、関心を持たないように見える子がいます。そのなかには、広汎性発達障害やアスペルガー症候群といわれる子たちがいます。対人関係が薄く、他の人と感情を共有しにくいことなどから、そのように思われるのでしょう。今回ご紹介する、小学校3年生のCくんも、そのような子のひとりでした。

 Cくんの診断名は、混合型のAD/HDでした。そのうえに、わずかに広汎性発達障害の傾向を持っていました。(一般的な診断基準では、『広汎性発達障害であればAD/HDと診断しない』とされています。ただCくんのような場合、両方を併せ持っていると理解し、指導を考えた方が有効だと思います)
 Cくんは、幼児期からの指導で、家庭では落ち着いて過ごせるようになっていました。お母さんに誉められたくて、お手伝いも積極的にしていました。また、お母さんが風邪をひいたときには「だいじょうぶ?」と言ってお薬を持ってきてくれる優しい気持ちも育ってきたそうです。私たちの行なっている小集団での指導でも、大人の指示をよく聞いて行動できていました。しかし、お友達への関心は薄く、「〇〇くんができたから、ぼくもがんばろう」といった気持ちは持てないようでした。子ども同士の競い合いの場面では、お友達に抜かされてもまったく悔しがりません。そんなCくんを見て、少しでも競争心を持ってもらいたいと「イスとりゲーム」など、友達と競い合う場面を積極的にとり入れました。

競争心は「悪い」ことか
 ところがCくんのお母さんから、「なぜ、物を取り合うようなことを教えるのですか?」と疑問を投げかけられました。「競争心も必要かもしれませんが、それよりも相手に譲る優しい心を持ってほしいと思っています。家では、物の取り合いになったら、相手に譲りなさいと教えています。競争心をむき出しにするような指導はしないでほしいのです」と、おっしゃいました。
 社会性の発達において、「競い合い」の気持ちの高まりは、とても重要な意味を持っています。子どもたちは「競い合い」を通して、さまざまなことを学んでいきます。ここで、学んでいくであろうことをまとめてみます。

@ルールの存在に気づき守ること

 競い合いには、順番にやるなどさまざまなルールがあります。そういったルールを守れるようになるからこそ、競争できるようになるともいえます。子どもは、競争に必死になるなかで、ルールを意識し、またそれを守れるだけの自己コントロール力を身につけていきます。

A競争にあたっての態度を学ぶこと

 競い合いでは当然ですが、勝者と敗者が生まれます。感情が大きく動く競争場面ですが、勝ったときに相手を見下したりするのは良い態度とはいえません。負けたときに泣いたり騒いだりしても嫌がられます。勝ち負けは楽しむものであり、結果にあまりこだわらない態度を学んでいかなくてはいけません。感情のコントロール力を高める、学習の場のひとつともいえます。

B思いやりの気持ちを育てること

 この頃から子どもたちは、「がんばれ」などと、仲間を応援するようになります。一方で負けた子に、慰めのことばをかける姿を見せはじめます。弱い子、いつも負けてしまう子にそのような気持ちを強く向ける子もいます。競争の場面は、とてもシビアーな場ともいえます。励ましやなぐさめが、競争の苛酷さを薄めてくれます。優しいことばに、仲間のありがたさを感じることもあるでしょう。
 なかでも最も重要なのは、「上達したい」という気持ちをはぐくむことです。競争心の高まりは、ほかの子などとの競い合いを通して、「上手になりたい」「上達したい」という気持ちを子どものなかに確実に育てます。この気持ちが育つことで、苦手なことや、興味のないことについても、仲間といっしょに積極的に取り組めるようになっていきます。

 ただ残念なことに日本では、この「競争の役割」が、大人の間で正しく認識されていないように思います。子育てや指導の場面で、あまりにも「一番、早い、勝った」という子どもへの評価がさかんです。このような評価を見て、「軍隊のようだ」と感じる外国人もいます。競い合いでは、「ルールの遵守」「自制された態度」「敗者への思いやり」の三つこそ、大人が評価すべきポイントです。また、子どもの心に「上手になりたい」という気持ちを育ててくれることを忘れてはいけません。
 Cくんのお母さんには、このような競い合いの役割をお話ししました。

 ■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会)言語聴覚士・小倉 尚子(発達協会)言語聴覚士

 


■競い合いの気持ちとその役割 A
 
 子ども達は競争の中で、「ルールの遵守」「自制された態度」「敗者への思いやり」など多くのことを学んでいきます。特に、仲間との競い合いが、「上達したい」という気持ちを高めていきます。  ただ、AD/HDや広汎性発達障害などの子どもの場合、この時期に入ると、特徴的ないくつかの問題が見られだすことがあります。

勝ち負けに強くこだわる  
 子どもたちの中には、勝ち負けの結果に強くこだわる子がいます。勝てなければ、一番にならなければ満足せず、大騒ぎとなってしまいます。いわゆる「一番病」といわれる行動を示します。なかには、八つ当たりで乱暴したりする子もいます。

● ルールをねじ曲げる  
 勝つためには、ルールの無視も平気でする子がいます。こういう子は、あそびの最中に、自分に有利なように勝手にルールを変更したりします。このために、ほかの子たちからうとまれるようになることもあります。

● 負けた子をあなどる  
 自分が勝って有頂天になると、負けた子をバカにしたりする子がいます。それがしつこかったりし、まわりの子たちや大人の気持ちを不愉快にします。

 このような状態は、競争場面を通じて本来は学ぶべきことを、なかなか学習できない姿ともいえます。ですから、このような姿が見られるからといって、競争場面を回避すべきではないでしょう。回数や時間はかかっても、このような姿を変えていくには、競い合いの体験が必要だからです。
 なお大人は、競争の場面での評価の軸を、「一番、早い、勝った」に偏らせず、「ルールの遵守」「自制された態度」「敗者への思いやり」についても目を向けるべきです。それらを子どもが守れたら、ほめるようにします。これらが守れないときには、「競争に参加する資格がない」と子どもに伝え、それを実行するようにします。このことがいい加減になってしまうと、子どもの騒ぎはなかなかおさまらないでしょう。
 なかには、競い合いや「戦いごっこ」のなかで過剰に興奮する子がいます。まるで、興奮することを楽しんでいるかのようです。このような、興奮したハイな状態になろうとする子の場合は、競争を制限して頭をクールダウンさせる時間も必要です。 
競争の時期に入る前あたりから、子どもはほかの子の行動や気持ちに強くひきつけられるようになります。そのような、ほかの子への関心の高まりが、競争へと導くともいえます。
 自閉的な傾向がある子は、他の子を意識する力が弱いように見えます。このような子を競争場面に参加させていくと、相手のことをよく見るなど、ほかの子たちへの意識が高まってきます。

関心が持てる世界を広げる
 発達につまずきを持つ子は、関心を持つ世界が狭く、新しいことに取り組むことが苦手です。このような子が、「競争時代」の前の「好きの時代」に留まっていると、自分の好きなことばかりにしか目が向かず、興味の幅が広がっていきません。前回、仲間との競い合いは、子どもに「上達したい」という気持ちを持たせてくれるといいました。「上達したい」との気持ちが、仲間が興味・関心を持っている世界にも目を向けさせます。そのなかで、子どもは自分の好奇心や興味の幅を広げてもいきます。

現れた「悔しい」という気持ち
 Cくんのお母さんには、「競い合い」のねらいを説明し、理解していただきました。
 さて、Cくんの「イスとりゲーム」の様子です。「イスとりゲーム」といっても、輪になって音楽に合わせて座るやり方ではなく、1対1の対戦でかけっこのように走っていき、3メートル先のイスに座れたほうが勝ち、というやり方をしました。初めのうち、Cくんはなかなかイスを取れませんでした。走るのが遅いわけではないのですが、競り合うと相手に譲ってしまうのです。負けても悔しそうな様子はなく、ホールを走り回れて楽しい! という風にはしゃいでいます。
 そこで、勝ち負けがわかりやすいようにと、ボードに名前を書きイスを取れた子にシールを貼っていくことにしました。勝敗が目で見てはっきりわかるので、それまで勝とうという気持ちが薄かったCくんもやる気が出たようでした。それでもなかなか勝てず、Cくんの表情が徐々に真剣になってきました。
 Cくんの表情が必死なものに変わったとき、相手の子に少しだけハンディをつけて、Cくんが勝てるように計らいました。とうとう勝てたとき、Cくんは、「すわれたー」と言いながら、泣き出してしまいました。今まで抑えていた悔しいという感情が一気に噴出してきたのでしょう。見ていたお母さんも、思わずもらい泣きしたそうです。
 この日以来、Cくんは徐々にお友達に関心を持ち始めています。1ヶ月たった頃、お母さんから嬉しい報告がありました。縄跳びの宿題を出しているのですが、「〇〇くんより早く合格したい」と言って、自分から練習するようになったとのことでした。Cくんの中に、みんなと同じように上達したいという気持ちが、確実に育ち始めたようです。

■月刊発達教育より 湯汲 英史 (発達協会)言語聴覚士・ 赤川 尚子 (発達協会)言語聴覚士

  
■…高めたい「上達欲求」

前回までは『競い合い』の、社会性の発達における役割についてお話しました。
 さてCくんは、お友達との競い合いで『勝って嬉しい、負けて悔しい』という気持 ちを体験しました。このような体験を通して、『上達したい』という気持ちが育って きました。お友達への関心も高まり、家でも度々お友達の話題が出るようになりまし た。お母さんはCくんの成長をとても喜んでいました。

大人が指示すると反抗
 ところが今度は、お母さんの言うことを聞けなくなってきました。「早く歯を磨き なさい」「宿題は終わったの」などと指示すると、「うるさいなー」と言ってやろう としません。偏食指導に力を入れていたのですが、以前は嫌いなものでもがんばって 食べていたのに、「何で嫌いなものばっかりなんだよぉ!」と文句を言うようになり ました。お母さんが「文句を言わないで食べなさい!」と怒ると、ますます反抗。結 局言い合いになり、食事どころではなくなってしまう、とのことでした。
 C君のお母さんは、「食べるのが嫌というより、私の指示に反抗しているような気 がします」と話され、これからの対応について相談されました。

大人も競争相手
 Cくんは、お友達との関わりなどから、『競争の時代』に入ってきたと考えられま す。他の子どもと競争することに熱中し、勝ち負けの結果に一喜一憂します。特にAD/HDや広汎性発達障害を持つ子どもの場合、勝ち負けに強くこだわり、負けると大 騒ぎする場合がある、と述べてきました。
 この時期になると、子どもばかりではなく、大人とも競い合おうとします。大人が 一方的に指示すると、反論したり、無視したりします。いうことを聞かないので、大 人はついつい感情的に命令しがちです。するとさらに頑固に反抗したりします。この 時期の子どもは、大人の言う通りにしたり、悪かったことを認めると、「負けた」と 思うようで、なかなか素直に従えません。

約束事に敏感になる
 競争は、ルール(約束事)を守ることで成立します。この時期の子どもは、この ルールにとても敏感になるといえます。決まっていたことを急に変更したり、突然一 方的な指示を出す大人は、子どもから見れば「ルール違反」と見えるのでしょう。
 この時期以降、あらかじめ約束をしておくことが必要となります。たとえば、ひと つひとつ命令するのではなく、「ご飯が終わったら、歯を磨く」「学校から帰ったら 宿題をする」など、子どもと約束をしておきます。この約束ですが、冷静に話し合っ て決めるようにします。その内容はなるべく具体的で、そして実現可能なものにしま しょう。失敗が続くと子どもはやる気をなくし、結局大人が指示する状態に逆戻りに なる可能性があります。また約束は、子ども自身に言わせるようにします。できれば 紙に書いておくと、忘れそうになっても確認できるのでおすすめです。
 いざ始めてみて、やろうとしない時には、「お約束は何だった?」と尋ねたり、約 束を書いた紙を子どもに読ませたりします。「約束を守るかどうか」は競争ではあり ません。自分との戦いともいえます。だから勝ち負けに敏感な子どもも、「指示」に 比べると素直に行動できることが多くなります。

レベル表で「上達した感じ」をつかませる
 さて、Cくんの食事です。まず、「一日一つは嫌いな食べ物を食べる」と約束した 上で、何をどの位の量食べるか、毎日Cくんと話し合って決めるようにしました。そ して、どれくらい食べられるようになったか達成度がわかるように、レベル表を作り ました。毎日、目標の食べ物と量を書き込み、食べられたらシールを貼っていきます
(図1)。初めはなるべく成功させたいので、「それほど嫌いではないもの」から始 めました。レベル表を使ったことでゲーム感覚も生まれたのでしょう。Cくんは「レ ベル1クリア!」といいながら、着々とシールを増やしました。シールが一つ増える たびに、お母さんは「食べられるものが増えてきたね。すごいね。」と誉めました。
 ところが、始めのうちは積極的に取り組んでいましたが、一週間も経つと以前のよ うに文句を言い始めました。お母さんはレベル表を見せて「約束は何だっけ?」と促 しましたが、「だって、まずいんだよ!」と怒り出します。そこでお母さんは、Cく んともう一度話し合うことにしました。そこで、食事中の態度などについて話をし、 あらたに
◎「文句を言わないで食べたらシールを貼る」 という条件をつけることにしました。

約束事は上達感が持てるように配慮
 お母さんは、「一度決めたからそれでいいというのではないのですね」と笑って話 されました。この時期の子どもは、約束事を守り、繰り返しやれるようになるから上手くなるともいえます。たとえば発音がうまくいかない子どもへの構音訓練や、手術 後のリハビリ体操などですが、訓練可能になるのは四〜五歳とされます。それは子ど もの側に、「上達したい、できるようになりたい」という気持ちの高まりが起こるか らです。ただ子どもは、ある程度できるようになると、意欲が続かなくなります。そういう気配が見えたら、再び上達感がもてる目標に変える必要があります。

■月刊発達教育より 湯汲 英史 (発達協会)言語聴覚士・ 小倉 尚子 (発達協会)言語聴覚士

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