ADHDへの理解と対応

子どものほめ方・認め方

 

■ルールのある集団と気持ちの安定

■「ありがとう」と「笑顔」

 


■ルールのある集団と気持ちの安定


「集団のルールを守れない」と言われやすいAD/HDの子ども達。しかし「ルール」を教えていくと、子ども達の集団はまとまっていきます。そしてそれは、子どもの気持ちを安定させていきます。ルールを教え、気持ちを安定させる対応の実際について、わかりやすくご紹介します。

●無法地帯の子どもたち  ホールは、小学校の教室ほどの広さです。そこに小学校1年から3年生まで、30名前後の子どもたちがいました。2、3人でまとまり、ゲームなどで遊んでいるグループもいました。ただ大半の男の子たちは、声をあげて部屋中をかけ回り、そこかしこでいさかいを起こしていました。手や足を出してのケンカも起こり、泣いている子も2人や3人はいます。これは、放課後に子どもたちを保育する、ある学童クラブの風景です。AD/HDの子が2人いるというので、相談の依頼がきました。職員室からガラス越しに、子どもたちの姿を見ていました。「どうしてこうなったのか」という、指導員の方のつぶやきが聞こえてきました。  喧騒の姿を目の当たりにしながら、これまで見て来た、似たような風景を思い出していました。子どもたちの集団が壊れた姿は、いつ見ても同じと感じていました。

●繰り返される怒り、罵声、乱暴  保育園の巡回相談を行っていると、最近は、先生のいう事をまったくといっていいほどきかないクラスに出会うことがあります。年長になっても同じです。子どもたちは、機嫌よく遊んでいたかと思うと、急に気分を変えケンカしだしたりします。怒った顔を相手に向け威嚇し、非難のことばや罵声をあびせます。ときには、実力行使となることもあります。こういう状態が、同時多発的にクラスのなかで起こってしまいます。そこにいる子どもたちは、感情のコントロールが未熟で不安定、またケガが多いという特徴を持つようです。
   

●集団のなかで意識されるルール  たとえば、ホールの中を円に走るというリズム遊びを見ていると、子ども集団の成長の姿がわかります。年少さんでは、みんなでうまく回れません。スピードはバラバラ、方向が不ぞろいで互いにぶつかることも珍しくありません。集団の動きは「気体的」です。  それが年中になると変わります。同じ方向に、相手のスピードに合わせて走れるようになります。ルールを互いに意識し、それを守れるようになるともいえます。動きは、「液体」のようにスムーズです。  年長さんではさらに、動きを集団でストップさせることができるようになります。一斉に止まる姿からは、みんなと上手にやりたい、まわりからも「みんな上手」といわれたいとの気持ちを感じます。まわりの評価を意識しながら、動きをともに制御できる、「固体」にもなれる集団を作りあげます。

●ルールを共有できない子どもたち  子ども集団が、3歳から6歳くらいにかけて見せる変化を紹介しました。「崩壊」している学童や保育園のクラスでは、集団のなかでのよい行動やルールの形成が不十分で、気体のようです。たとえば、相手をよく見て順番を守る、押したり叩いたりしないといった基本的なことが守れません。感情的になりやすく、大きな声で相手をののしることもしばしばです。顔の表情が不安定で、落ち着いた仲間関係が結びにくいのが特徴です。

●大人のかかわり方で変化する子ども集団  子どもたちがあちこちでいさかいを起こしているときに、大人はどうしたらよいのでしょうか。まずは集団を作ることが目標となります。子どもたちに、どういうことをしたらよいのか、大人は明確に伝えるようにします。たとえば、「立っちゃダメ」と叱るのではなく、ちゃんと座っている子を「ちゃんと座っていられたね」とほめます。集団のなかに望ましい行動を持ち込み、明確にしていきます。意識しておきたいのは、察することが苦手な子たちがいることです。「立ってはダメ」=「座っていればいい」という連想ができにくい子たちです。望ましい行動を、直接的に表現するようにします。   あちこちで起こるいさかいは、しばらく無視します。局地戦になれば、結局は叱る、注意するが中心となります。どうしても感情的になり、望ましい行動を伝えることや、ルールの確立は難しくなります。よい行動をはっきりとさせる、集団にルールを持ち込む、局地戦をしないと大人が意識するだけで、子ども集団は変化していきます。

●無法地帯だから怖い  子どもたちにすれば、怒声、罵声、乱暴が当たり前の無法状態は、いつ何が起こるかわからない危険地帯でもあります。毎日、抗争が起こっている地域に連れて行かれ、そこにいさせられるようなものです。結果としては、先に紹介した学童クラブは、3年生や女の子たちがやめていき、また出席率も低下しているそうです。保育園では、子どもたちの間で行きしぶりが見られるようになったりします。

●乱暴という過剰反応  崩壊状態の学童クラブには、2人のAD/HDの子たちのことで行きました。2人は、確かに走り回り、いさかいを起こし、大声で叫び、泣いたりしていました。ケンカも繰り返していました。職員室に何度も来て、大人に他の子たちの理不尽さを訴えていました。  その姿は目立ち、また自己中心的な話が多いのは確かです。ただこの二人が、騒ぎの張本人とはとてもいえません。感情の抑制が悪く、興奮しやすいところはあります。だから、非難や乱暴のほか、テーブルにのぼるなどの行動も目立ちます。ただ、他の子たちに誘発されての反応です。乱暴も、防衛のための過剰反応に見えました。子ども集団のなかに、一定のルールが確立し、思いやりや励ましなどが結びつきを強くしていれば、AD/HDの子たちはもっと落ち着くと思いました。

●ルールがあれば見られなくなる乱暴  AD/HDの子どもたちをグループで指導する際に、何よりも大切なことは望ましい行動やルールを明確にすることです。それらが了解されれば、感情的になったとしても乱暴することは激減します。それは、ルールなどによって、自分が守られているとの安心感からくるのではないか、と思っています。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士


■「ありがとう」と「笑顔」


 人には、他の人に喜ばれたい、ほめられたい、認められたいという「社会的承認欲求」があるとされます。喜ばれ、認められることで、子どもは情緒や社会性を育てるともいわれます。
さて今回は、子どもたちのエピソードをまじえながら、発達段階に応じた、ほめ方・認め方を紹介します。


人から喜ばれること
 小学1年生の秋、はじめて会ったTくんは表情の暗さが印象に残る子でした。話をするうちに、気持ちは幾分か和らぐのですが、生き生きとした子どもらしい姿が見られません。彼は学校で叱られ、家でも叱られてばかりのAD/HDの子でした。
 2年生になって、お父さんが彼と付き合うようになりました。以前から、何をやるべきか、行動の枠をはっきりとさせることをお母さんにすすめていました。お父さんは、それを一歩進めました。お手伝いをすれば、お小遣いが貰えるというシステムを導入しました。内容はいたって簡単、マンション階上の自宅から、1階に配達された新聞を取りに行くというものです。
 2年生になったこの秋、父と息子と数カ月ぶりに会いました。息子の方は暗さが取れ、何よりも笑顔が見られるようになったことが印象的でした。お父さんに話を聞くと、先日お小遣いが1,000円貯まったので、おもちゃを買いに行ったそうです。1回10円の約束ですから、彼は百回やったことになります。貯まったお金で買ったミニカーを、彼は宝物のようにしているとのことでした。お父さんの話は「この子は、枠組の中にご褒美の要素がないとダメですね」と続きました。
 そこで「新聞を取りに行くことと、1回行けば10円貰えることはすぐにわかりましたか?」とたずねてみました。お父さんから、「始めはなかなかわかりませんでした。20回近くはかかったと思います」との答えが返ってきました。理解するのに、これほどの回数が必要には思えない子です。しかし、単純に思えることでも、時間がかかることが少なくありません。これはお手伝いと報酬の関係というレベルから、「人から喜ばれること」というレベルに目が向きだし、いろいろなことを意識し始めるからだろうと思います。思考が単純ではなくなり、だからかえって、「何をしたらよいか」で悩み、混乱するのでしょう。

ご褒美は笑顔
 Yくんは、5歳になったばかりの、多動で自閉的な子どもです。ことばは単語が時おり聞かれる程度です。この子は偏食が強く、特定の食べものしか口に入れようとしません。そこで、保育園の先生は、嫌いなものを食べたら好きなものをあげるというやり方で偏食に取り組みました。はじめは大変だったようですが、半年ほどかかったものの、この「システム」をYくんは理解しました。急速に偏食は改善されていきました。
 たまたま指導場面を見る機会がありました。先生は、彼が嫌いなものを食べると心から喜び、好きなものをあげていました。それを見ながら、もう好きなものは必要ないと思いました。先生の方が、やり方について自閉的にこだわっていました。Yくんは、先生の笑顔に笑顔で反応しました。笑顔だけで、十分なご褒美になっていることが一目瞭然でした。

喜ばれることが何かわからない
 ある子は、「ぼくの前は×(バツ)地雷だらけ」と話しました。前後左右、上下斜め、どこに進もうと、自分で何かをする度に叱られている状況を、彼はそう表現しました。「言い得て妙」だと思います。
 Tくんは、人から喜ばれ認められる体験が少なかったようです。だから不安で暗い顔をしていました。お父さんがお手伝いをさせたことで、人から喜ばれる感じを知りました。ただ、始めの十数回は何をすればよいのか、自信が持てませんでした。Yくんも同じです。Yくんは、先生との関わりのなかで好きなものは笑顔へと変わっていきました。Tくんも、お父さんの「ありがとう」のことばと笑顔が、何よりのご褒美になっていると思います。
 人には、他の人に喜ばれたい、ほめられたい、認められたいという「社会的承認欲求」があるとされます。喜ばれ、認められることで、子どもは情緒や社会性を育てるともいわれます。ただ同じようにほめても、子どもはいつの間にか喜ばなくなったりします。ことばの内容などが、子どもの発達段階に合っていないことも原因の一つです。
 さて今回は、子どもの発達段階に応じた、ほめ方・認め方を紹介します。(参考までに、一般的な年齢も付記します)

●第T段階 人から喜ばれたい(6,7カ月〜)
 この時期の赤ちゃんは、「ダメ」の言葉で手が止まるようになります。一方で、人から喜ばれたいと「芸」をしだします。人に喜ばれたいという気持ちの高まりは、社会性の始まりといえます。この時期は身体接触を主とし、はっきりとした表情・声色で「ダメ」と「よい」を教えます。

●第U段階 ほめられたい(1歳半〜)
 これくらいから、子どもは「よし−悪し」がわかってきます。大人が「マル!」とか「ピンポーン」といってほめると喜びます。何かができた時やいいことをした時には、同じことばや身振りでほめるようにします。
(例)「マル」「できた」「ピンポーン」 など

●第V段階 大きくなりたい(2歳前後〜)
 子どもは徐々に、大きいものへの憧れを持つようになります。この時期に「お兄ちゃん? 赤ちゃん?」と聞くと、「お兄ちゃん」と答えます。
(例)「お兄ちゃん(お姉ちゃん)だね」 など

●第W段階 好きになりたい(3歳〜)
 好きなことが違うから、人は一人ひとり違います。この時期には、子どもの好きなことを受けとめてあげるような、共感的な言葉かけがポイントとなります。
(例)「好きなんだよね」「面白いよね」「楽しいよね」 など

●第X段階 勝ちたい(4歳〜)
 ほかの子どもや大人との競い合いの結果を、認めてもらいたくなる時期です。「ぼくすごい?」とか「早かった?」と、子どもの方からしばしば聞いてきたりします。
(例)「早いね」「いちばん」「エラーイ」 など

●第Y段階 うまくなりたい(4,5歳〜)
 この時期から結果よりも、がんばった過程を認めることに重点をおきます。
(例)「上手になった」「すごくがんばった」 など

 これ以降、大人からの評価でなく、子どもからのものが大きな影響力を持ちます。また小学校高学年になると、外部評価ではなく、自分自身の内面での評価が重きを持ち出します。

(参考)
一松 麻実子著「社会性を育てる…認められたい気持ちを中心に」
『発達教育』平成13年7月号特集

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士


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