ADHDへの理解と対応

道徳への意識を高める

■…大事・大切と思う気持ち

 これまで7回にわたり、「善い−悪い」という道徳を学ぶ過程のなかで、AD/HDの子に現れやすい姿を紹介してきました。具体的には、「人を非難する」「物事の優先順位がわからない」「気分優先で判断する」などの姿を取り上げました。そのなかで、道徳がわかりにくい子についてもふれました。今回はこのことについて、もう少し掘り下げてみます。

■・・・道徳がわかりにくい子・守れない子

目に見えにくい道徳への意識。子どもたちの道徳への意識は、簡単な質問でわかります。多動な子どもたちの中には、道徳がわかりにくかったり、守れなかったりする子も多くいます。そんな子どもたちとの関わり方をわかりやすくご紹介します。

 


■…大事・大切と思う気持ち

●どうして乱暴はいけないのか?
 子どもや青年たちが、クリニックにやってくる理由はそれぞれです。そのなかで目立つのが「キレル」「乱暴」です。ほかの子の言動に感情的に反応し、殴ったり蹴ったりしてしまいます。しつこく追いかけまわすので、怖がられてしまう子もいます。
 何事も悪意にとってしまうなど、感情的になる原因はいくつかあります。ただその原因については、これまでの回でふれてきたので、今回は取り上げません。
 さて乱暴する子どもについてです。これまで、子どもたちには乱暴の原因だけではなく、「どうして、人を叩いてはいけないのか?」とたずねてきました。大半の子は、「相手から嫌われるからダメ」「いやがられるからいけない」と答えます。そこでもう一歩踏み込んで質問します。「では、どうして嫌われたらダメなの?」と聞きます。この質問には無言か、「ダメだからダメ」といった答えしか返ってきません。
 「人から嫌われるからダメ」と答える子は、なかなか乱暴が止まりません。乱暴したあとにまわりから責められると、「嫌われてもいい」と言い返したりします。捨てゼリフのように聞こえてしまいますが、「なぜ乱暴はいけないのか」を、本質的には理解しきれていない証拠とも言えます。

●「嫌われるから」ではない答え
 
健常とされる子に、「なぜ乱暴はいけないの?」と聞くと、「嫌われるから」と答える子もいます。ただ、「友だちは大事」「人は大切にしなくてはいけないから」という答えが返ってくることも少なくありません。この「人は大事、大切」まで理解されていないと、「嫌われてもいい」となり、それが「乱暴してもいい」になってしまうように思います。

 話は変わりますが、重い知的障害を持つ子が物を乱暴に扱った時に、「そっと」と注意します。もちろん、小声で「そっと」の雰囲気を出すように努力しながらですが。実はこう言いながら、はじめは「そっと」ということばはとても難しいからわからないだろうな、と内心では思っていました。ところがそうではないのは、皆さんもご存知の通りです。「そっと」と注意すると、ほとんどの子の物の扱い方が丁寧になります。
 逆に「グイと引っ張って」、「バーンと叩いて」など、力いっぱいに、乱暴に扱うことばの方が、とても難しいのもご存知と思います。
 「そっと」は、大事な物を大切に扱う姿です。「そっと」が、知的には重い障害がある子でも理解できるのは、大事・大切を理解することが、人の適応にとってとても重要だからとも考えられます。

●まずは「大切」という気持ちから始まる
 好きな子や物がはっきりとしてくる3歳前後から、子どもは「好き」という感情と同時に「大切にする」という気持ちを、育んでいくように思います。ここで、大人は「大事・大切」と思う気持ちを十分に受け止め、育む必要があるのでしょう。ただ子どもは乱暴もします。だから大人は「嫌われるよ」と注意します。この「嫌われるよ」が表面的に理解されると、本質的な「大事・大切」の気持ちに気づきにくくなるのかもしれません。   「どうして電車で、お年寄りに席を譲らなくてはいけないのか?」という問いでも同じことが言えます。AD/HDの子は、「かわいそうだから」「弱いから」という答えにとどまってしまいがちです。「人は大事だから」「お年寄りは大切にしなくてはいけない」という、本質的な理解まではなかなか深まりません。

●なぜ勉強しなくてはいけないのか?
 
「全然勉強をしません」「学校の宿題は提出したことがありません」「これでは高校なんか行けません」という親の嘆きをよく聞きます。実際に目の前で、「こんなんじゃ高校なんか行けない」「じゃ高校なんか行かない」という、まさに売りことばに買いことばの、親子の姿に立ち会ったこともあります。
 そばにいながら、子どもの「どうして勉強しなくてはいけないのか」ということばもわかるような気がします。勉強は、するかしないかで追い込んだり、ましてや学校に行けないと脅してやらせるものではありません。
 本来は、「いろいろなことを知るのは楽しい、学ぶことは面白い、多くのことを知れば正しい判断ができる」などが勉強の目的です。健常な子は、このことをこころのどこかで認識しています。だから勉強しない自分に罪悪感を持ったりします。しかしAD/HDの子は、勉強についても本質的な理解が不十分のようです。このために、「勉強しなさい」という指示に意欲が湧かず、反発しか感じないのではないかと思います。なかには、勉強の面白さに突然目覚め、驚異的な集中や持続を見せだす青年たちもいます。

●教えなおすこと、育てなおすこと
 
大事・大切と思う気持ちが芽生え、育まれるのは3歳頃からです。そして6歳を過ぎる頃には「乱暴はいけない」という道徳を自分のなかに根付かせ、それを判断基準としだします。子どもが、学ぶことに好奇心いっぱいの目を輝かせるのもまた幼児期からです。
 この時期のAD/HDの子は、自分をコントロールすることができず、注意も集中も不十分で、衝動のままに日々を過ごしがちです。必要なことを学ぶ体験が不足しています。だからこそあらためて教える必要があります。

 実際の指導ではことばのやりとりばかりでなく、乱暴の場面などを再現させたりします。そして立場を逆転させ、自分が乱暴されたらどういう気持ちになるのかを聞きます。本人に「痛い」よりも「大事・大切にされない」ことの悲しさにも気づいてほしいからです。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 


■・・・道徳がわかりにくい子・守れない子

子どもが、道徳を意識しているかどうかは簡単な質問でわかります。「正しいと強い、どっちがいい?」と二者択一方式で質問します。できれば、両手をあげて、「こっちが正しい、こっちが強い」「どっちがいい?」と視覚的に訴え、イメージをしやすいようにします。

☆「強い」を選ぶ子
「強いがいい」という子は、勝ち負け意識が強い段階です。ヒローごっこに夢中になるなど、強さへの憧れが見られます。判断基準を発達年齢でみると、おおむね四〜五歳レベルです。

☆「正しい」を選ぶ子
「正しい」を選ぶ子は、道徳を意識しています。おおむね六歳以上の判断基準となります。子どもの「正しい」の答えに、「勝たないと気がすまないくせに」と素直にうなずけない大人もいます。「いいカッコばかりして」と感じたりもします。ただ、わかってはいても守れない、それが人間でもあります。喫煙、食生活の改善など、大人でもなかなかできません。これについては後ほど述べますが、重要なのは道徳がわかっているかどうかです。

「正しい、強い」の質問は、これまで、延べで千名を越える子どもたちにしてきました。年齢は、3歳から中学生までです。
十年余、付き合っているAD/HDの子どもたちがいます。時間をおいて質問するのですが、「強い」から「正しい」へと、成長につれ判断基準が上がっていくことがわかりました。また、いったん「正しい」になったら「強い」に戻ることもありません。
 なかには、「強くて正しいがいい」という子がいます。確かに、強くなくては正しい意見も主張できないことがあります。小学校高学年くらいから出てくる答え方です。
「やさしいがいい」と言う子もいます。小学校低学年でも、AD/HDの子では、形式にしばられない答えをする子がいます。

☆現実場面を想定して質問する
 続いて、現実場面を想定した質問をします。
たとえば、
「電車に乗っています。○○くんは、椅子に座っています。目の前におばあさんが立っています。どうしますか?」と聞きます。子どもから、「席をゆずる」「立つ」といった言葉が返ってくれば、道徳的な感覚をもっているといえます。
「小さい子がいます。喧嘩をしかけてきました。どうする?」の質問に、「ぶん殴る」「やっつける」という答えをする子は、勝ち負けが優先される段階です。「やめなさいと言う」「とめる」などは、道徳的な判断ができている証拠です。
こういう質問をしながら、自分より弱い者、対等でない者への考え方、態度の取り方などを知ります。この他に、他人の物への意識や、物を大事にすること、お金や命への考えなどを知るための質問を行っています。

☆わかっていない子、わかりにくい子
 子どもには、幼くて未熟だから「席をゆずる」ことがわからない子がいます。「小さい子をやっつける」と話す子がいます。未熟が原因ですから、年齢があがり、経験を積むうちに判断基準が進んでいきます。道徳的に見て、適切な答えが返ってくるようになります。今はわかっていないものの、その内にわかってくる子です。
 ただなかには、「勝ち負け」から先になかなか行かない子がいます。こういう子に、「どうして優しく出来ないの」「何で小さい子をいじめるの」「お金を黙って持っていったらダメでしょう」と叱っても、のれんに腕押し状態となりがちです。いくら叱られても、行動の修正できません。
 こういう子は、「弱い人に優しくすべき「小さい子に乱暴をしてはいけない」「お金をとってはダメ」という知識がしっかりと理解されていません。大人は当然わかっていると思い、繰り返し叱ります。ところが子どもは、本当にはわかっていませんから、なぜ怒られるのかピンときません。このこともあって、「オレばかり怒られる」「嫌われている」と思いこみます。こういう子が「わかりにくい子」です。

☆わかりにくい子はきちんと教えること
 わかりにくい子には、気持ちの穏やかな時に、具体的な場面を想定しながら、話し合う必要があります。叱りながら教えるのではなく、知識として理解させていきます。グループ学習も有効のようです。子どもたちは、何が正しいことで、何がいけないことかを、はっきりと学ぶ必要があります。

☆ことばでは正しい答えをする子
「おばあさん」や「小さい子」への内容ですが、「適切な答え」をする子がいます。しかし実際には、答えどおりに実行できません。こういう子には二つのタイプがあるようです。
一つは、言葉とその具体的内容がばらばらな子です。あるいは、自分はそうしなくていいと思っていたりします。都合よく、自分だけが例外となっています。
 こういう子には、実際の場面で「席を譲らせ」「小さい子に本気にならないよう」教えていく必要があります。とるべき態度とともに、自分が例外でないことを教えます。できたらほめて、言葉の示す行動がどういう内容かを教えます。

☆衝動性が高い子は、医師と相談を
もう一つのタイプは、衝動性が高い子です。
冷静なときには理解できていますが、現実の場面では抑制がきかないことがあります。何かに影響され興奮してしまうと、未熟な判断基準で行動します。自分ではわかっていても、「ブレーキがききにくい」状態になってしまいます。こういう子は、服薬が選択肢の一つとなります。お医者さんと相談された方が良いと思います。
 こういう子は、わかっていながら適切な行動がとれません。喫煙者の矯正で問題なのは、禁煙できないことで「自分はダメ人間」と思いこむことです。自己評価を下げないためには、医療の助けが必要と思います。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

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