ADHDへの理解と対応

子どもの集団を考える

■…仲間が変える力

 今回のテーマは「仲間」についてです。集団生活を通して子どもたちがどう変わっていくか、子どもたちと過ごした合宿のエピソードから考えていきます。

■…感情のコントロール力と集団の力

 AD/HDの子どもたちが苦手とするのが感情のコントロール。気持ちがひとつになった子ども集団が、感情のコントロール力をはぐくむこともあるようです。ある男の子の成長を通して感情のコントロールについて考えます。

■…子ども集団と同調圧力

vみんなでやる時に、「先生の言うことを聞かない子がいてイライラした」というAD/HDのNくん。子どもの集団を「同調圧力」という視点から考えます

 


■…仲間が変える力

 毎年夏に、子どもたちと合宿をしています。今年は、小学校4年生から6年生まで、56名が参加しました。子どもたちの多くはAD/HDと診断されています。この他に、学習障害やアスペルガー症候群などの子がいます。2泊3日の期間、子どもたちは5つのグループに分かれました。10名余のグループはさらに、3から5名が一組になって行動します。今回は、合宿で感じたことをまとめてみます。

●「見て見て」の気持ち
 「見て見て」と大人にせがむ子が、3分の1ほどいました。一般的には、1歳の半ば頃より、自分が注目しているものをまわりの人にも見てもらおうとしはじめます。たとえば「わんわんだ、みて」と言ったりします。2歳台の後半からは、丸を描いた後に「みて」と言ったりします。この時期から、自分のやった結果(成果)を認めてもらいたいとの姿が、しばしば見られはじめます。
 ただ小学校4年生ともなれば、大人よりも仲間から認められたい気持ちのほうが強まる時期です。合宿への不安もあるでしょうが、社会性の幼さも感じさせます。

●「グループ意識」の発生
 もともと、学校などで不適応を抱えてクリニックに来た子どもです。たとえ友だちがいてもごく限られた人数です。まったく友だちがいない子も少なくありません。そういう子たちが、グループを意識しはじめると、ほかの子がどこにいるのかを、目で追うようになります。「〜くんはどこ?」と、所在の確認を求める子もいます。グループ意識をつくっていくために、名札をつけ、また何度も点呼をしたりします。さらに大人が「〜くんはどこにいる?」とたずねるようにもします。こういうことの積み重ねの中から、グループ意識は生まれてくるのでしょう。もともと、子どもは仲間を求めているから、意識が自然に生まれてくるとも思います。

●すねる子たち
 場面が切り替わる時に、うまくそれにのれない子たちがいます。そしてすねてしまいます。こういう子どもの姿は、4歳くらいから見られはじめるようです。気持ちが切り替わりにくく、新しい活動にスムーズに移行できないのかもしれません。時には、ほかの子たちの姿を見て、自分はできないと感じてしまい、不必要に萎縮してしまうこともあるようです。
 こういう状態になった子に「どうしてしないのか?」と理由をきいても本人は答えられず、有効な対応ではないようです。気分との関係が深いのでしょう。大人は、新しい活動に入れるよう、子どもの身体の動きを手伝います。子どもの気分転換を手伝う感じで、付き合うほうが有効のようです。なお、すねる子はグループ意識があるので、入れない自分自身に苛立ってもいるように感じます。自分だけの力ではグループに入りきれない子と言えます。

●「よい行動」がわからない
 読者の方々のご想像どおり、グループ活動に慣れず、自分勝手に活動する子たちです、大人は叱ることが多くなります。
 ただ子どもの側から言えば、経験の未熟もあり、どういう行動がよくて、何がいけないのかがあまりはっきりしていません。そこで、名札によい行動をした子には金色のシールを貼ることにしました。いけない行動には「イエローシール」、ほかの子に乱暴するなど絶対にダメなことをした時には「レッドシール」です。
 アテネオリンピックの影響もあり、金色シールは「金メダル」のように感じた子が多く、思わぬ効果をあげました。

●思わぬ力を引き出した「農作業」
 今回の合宿のメインは、「ハイキング」と「農作業」でした。とくに農作業は初めての試みで、大人は不安でした。ところが草とり、畝(うね)づくり、種まきと合計で5時間ほど取り組みましたが、意外に集中できました。草とりは、草があるかないかははっきりしています。畝の間は60センチ、人参の種は10センチずつあけて、2、3粒埋めるなど基準がわかりやすいことも、集中や持続を促した理由かもしれません。農業は数量や時間など、思う以上に基準が明確です。現在、アスペルガー症候群や高機能自閉症が社会的に問題になっています。これは、第三次産業のサービス業に従事する人が6割を超えるほどに増えたからという説もあります。サービス業だから、相手の気持ちを想像したり、くみとる必要があります。第一次や第二次産業では、そういうことがそれほど重視されません。 農作業をやって面白かったのは、すねたり、仲間とのトラブルが多かった子が熱心に取り組み、そのことを大いに認められたことです。人間とは捨てたものではないな、一人ひとりの子は、それぞれのよさを秘めているものだとあらためて感じました。

●「はしゃぐ」姿と仲間の形成
 仲がよくなるにつれ、ダジャレを言って笑い転げたり、大人には理解できないことではしゃぐ姿が見られました。こういうことを通じて楽しさだけでなく、仲間意識なども形づくっているのでしょう。大人は中に入れない子どもだけの世界です。

●「ケンカしたくない」という気持ち
 乱暴を理由にクリニックを受診した子がいました。その子が、帰りの電車の中でほかの子と険悪なムードになります。ところが「ぼくはケンカしたくない」といい、冷静に話しはじめました。学校では問題児のその子が、グループを意識してこれほど変わったのです。個別指導ではできない、グループの力を改めて学んだ日々でした。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 


■…感情のコントロール力と集団

 Tくんとはじめて会ったのは、彼が4歳6ヶ月の時でした。お母さんとTくんは、受診前日にクリニックの近くのホテルに泊まりました。Tくんは多動で衝動性が強い子でした。家からクリニックまでは、電車で1時間ほどの距離です。それでもお母さんは、電車に乗って連れてくることに自信が持てませんでした。
 この時には、Tくんはおしゃべりができず、落ち着きもありませんでした。ただ、ことばの理解力は高いものがあり、彼が興味の持てる教材では、集中も持続も見られました。彼が初めてしゃべったのは2ヵ月後、「カギ」ということばでした。鍵がなく、家に入れなかった時にお母さんに向かって言いました。

●転園を繰り返す

 多動ばかりでなく、やや自閉的なところもあり、早めに集団に入れることになりました。お母さんは私立の幼稚園に入園を頼みました。しかし、自分勝手に動き回る彼に先生は音をあげ、やめさせられてしまいました。再度違う園にも挑戦したものの、先生の指示を聞けず、すぐに奇声をあげてしまいます。ときに他の子に乱暴してしまい、結局この園でもTくんは受け入れが困難となりました。
 5歳になったTくんは、ことばの力が大きく伸びてきました。語彙数ばかりでなく、2語文も言えるようになりました。
 文字や数字への関心も高まり、読んだり書いたりするようになりました。他の子たちへの関心もはっきりと出始め、運動などでは真似する姿も見られるようになってきました。そういう姿を見ていると、やはり仲間集団が必要と感じました。
 そこで、ある保育園の園長先生に頼み込みました。その先生は、Tくんを見て彼の成長を直感されたのでしょう、入園を許可してくれました。ご両親は県をまたがって転居し、Tくんの保育園生活が無事にいくよう全力を傾けられました。

●気持ちを共有できない

 園での姿を見ていると、自分が興味を持った運動や遊びについては、明らかに他の子どもたちと同じ行動をとっています。
 ただ、他の子たちと違うのは、感情の共有が薄いことでした。一緒に行動しながら、他の子の顔を見て笑いあう姿がありません。自分の気持ちがそれると、子どもたちから離れ、自分ひとりの世界へと入っていきます。
 そういう姿を見せながらも、園長先生が直感されたように、彼は大きく変化していき、能力的には普通学級に行けるまでになりました。

●いろいろな気持ちに気づく

 Tくんは、小学校では普通クラスで勉強することになりました。勉強への関心は強く、理解力も高まりました。また放課後は学童クラブに通い、他の子たちとのつきあい方を学ぶことになりました。お母さんは積極的に、クラスの子たちを家に呼びました。不思議と女の子たちに人気があり、家には彼女たちが遊びにくるようになりました。Tくんはもともと優しいところがあるからかもしれません。
 女の子たちは、会話の中で気持ちのことばをよく使います。このことがTくんにはよかったのでしょう。「うれしい」「たのしい」「かなしい」などの気持ちを、自分から表現するようになりました。

●ある事件…集団感情に従うこと

 3年生の運動会でのことでした。落ち着きがなかったり、衝動的な部分は残しつつも、まずまずの学校生活を送っていました。ところが運動会で、ある女の子を投げとばしてしまいました。それでクリニックに、校長先生と教頭先生がお出でになりました。これから、このままで「大丈夫なのか」というご相談でした。
 彼に理由を聞くと、自分たちのクラスの赤組は勝ったのに、女の子が拍手をして喜ばなかったと言います。それで怒ってしまったと言うのです。投げとばしたという行為は問題ですが、ある集団への所属意識を持ち、みんなと一緒に勝ちたいという思いが芽生えたことを嬉しく思いました。校長先生には「大丈夫」とお話をしました。後日担任の先生と、気持ちの成長を認めながら、いけない行動は注意していこうと電話で話し合いました。

●自分の気持ちを見つめる力とぼやき

 5年生の時のことです。毎年夏には合宿を行なっていますが、その時のお風呂場でのことです。AD/HD傾向のある子たちは、大きな浴場ではしゃぐことが多く、Tくんもプールのように飛び込み、泳ぎはじめました。そこで強く注意すると、「おれって、自分で止められないんだよな、悪いってわかっているんだけれど」とぼやきました。「おればっかり怒られる」と被害的な見方をもとに話す子の姿はよく見られます。しかしTくんのように、ある程度客観的に自分の行動や心理を分析できる子は少ないと思います。Tくんの成長を感じました。

●集団のなかで目立たなくなる

 その後、Tくんは集団のなかでの適応がますますよくなっていきました。ときどきユニークな発想の発言はあるものの、クラスのなかで目立たなくなりました。
 その後、私立中学を受験して合格、現在は高校2年生です。

●集団とひとつになって落ち着く気持ち

 一人ひとりがばらばらの気持ちでは集団は成立しません。Tくんの成長の姿を振り返ると、気持ちがひとつになった子ども集団が、Tくんに感情のコントロール力をつけてくれたように思います。子どもが集団に所属すべき理由は、このコントロール力を養うことにこそあるとも思います。気持ちの読み取りが苦手な子には、集団感情についても伝えていく必要があると考えています。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 


■…子ども集団と同調圧力


小学校2年生のNくん。乱暴はないものの、椅子に座っても身体のどこかが動いています。注意も散りやすく、宿題には、母いわく「考えられないほどに時間がかかる」とのことです。歯を磨かない、汚れた服でも平気、忘れ物は当たり前と、話は続きます。自分勝手な行動が多く毎日先生から注意されている、友だちもいない、交通事故にも遭ったことがあると言います。優等生だったらしいお母さんには、「まったく信じられないことだらけ」だそうです。
 このNくん。たとえば「好きなテレビ番組は何ですか?」といった質問に、すぐに答えません。ちょっと考えてから、答えます。それに番組名を二つあげてくれました。

●尚早反応とポカミス
 AD/HDの子では、質問にすぐに答える姿がよく見られます。なかには、反射神経がよく、才気煥発な子もいます。聞く側が感心するほどの答えに、「お笑いの芸人さん」向きと言われたりします。
 「好きな食べ物は?」の答えでは、いくつもいくつも名前をあげてくれます。ストップをかけないと、話が勝手に展開していくこともあります。

 簡単な質問では意味がとれても、文章が長くなるとトンチンカンな答えになる子もいます。学校のテストではポカミスが目立ちますが、尚早反応(あわてんぼう反応)が原因とも言えます。テストの見直しはしようとせず、点数が低くなってしまう子もいます。なお、小学校高学年以降にならないと、見直しの姿は見られないようです。時期を待つしかないのかな、とも感じます。

 さてNくんですが、話をする場面では「あわてんぼう反応」はありません。また、だらだらとおしゃべりをする姿も見られません。番組名を二つあげたのは、ほどよい数です。そのうち落ち着いてくるだろうと、お母さんにはお話しました。

●人から見られた時の姿を想像する
 そのNくんと3ヶ月ぶりに会いました。「この頃イライラしたことはある?」と聞くと、「みんなでやる時に、先生の言うことを聞かない子がいる。それでちゃんとやれないので、イライラした」との答えが返ってきました。

 たとえば、みんなでやる「リズム体操」の場面です。一般的に5歳くらいでは、子どもは先生の指示どおりに動くのに精一杯です。ところが卒園も間近な、年長の秋くらいになると、自分の動きに余裕が出てきます。そして子どもたちの中に、「自分だけが上手でもダメ、みんなが揃っていないと上手と言えない」という気持ちが芽生えてきます。他の人がどう見ているか、どういう姿ならば評価してくれるかを想像できるようになると言えます。この気持ちが強まると、みんなと一緒に動けない子や、ふざける子は注意を受けるようになります。そのこともあって、学芸会などで、子どもたちは動きの揃った演技を見せるようになります。

●「同調圧力」は時に集団での乱暴にも
 このような、子ども集団の中に働く、「みんなで同じようにしたほうがいい」という力を「同調圧力」と言います。この圧力は、小学校低学年の頃、とくに1年生の秋くらいから強まってくるようです。
 この頃の子どもたちに、「○○くんってどんな子?」と質問したとします。そうすると、「先生の言うことを聞かない」「椅子に座ってない」「大声をだす」などの具体的なエピソードを話してくれます。
 ここで驚くのは、複数の子が同じようなエピソードを話すことです。子どもたちは、ある子が示す、みんなと違う言動をよく見ています。そして、その視点が複数の子たちで一緒です。「みんなで同じようにしたほうがいい」という同調圧力が知らず知らずのうちに働いているからなのでしょう。だから、ひとり違うことを話したり、行動したりする子のことが多くの子の目につきます。

 同調圧力が強くなり過ぎると、ひとり違うことをする子が許せなくなります。そして子ども集団の中に、みんなと同じようにさせたいとの思いが高まります。そうすると、ことばで注意したり、それで効かないと乱暴したりもします。この時に、子どもたちは自然の欲求にもとづいて行動しています。そのベースには「仲間づくり」への欲求があります。だから、大人が注意しても簡単にはやみません。強く叱るだけだと、隠れてやったりします。子どもたちの言い分をよく聞き、子どもどうしの関係調整が必要となります。

●学級崩壊の原因  
 この同調圧力が、クラスを崩壊させることもあると言います。「先生の言うことを聞かない」という圧力が子ども集団に働くと、ひとりだけいい子にすることができなくなります。崩壊したために、担任の先生が替わることもあります。新しい担任になると、急に子どもたちがおとなしくなったりします。「先生の言うことを聞く」という内容に、圧力が切りかわったからとも言えます。
 同調圧力が読めない子は、おおむね1年生の秋から3年生までが大変な時期となります。気持ちが不安定になり、心身症になったりします。この同調圧力も、小学校4年生あたりから弱まってきます。小学校の高学年になると、「○○くんってどんな子?」と聞くと、「知らない」「わからない」という答えになります。

 さてNくんです。「みんなでやる時に、先生の言うことを聞かない子がいる。それでちゃんとやれないので、イライラした」というのは、他の子たちと一緒にやることに気づいた証拠と言えます。「自分のことは棚に上げて」の段階のようでもありますが、仲間の中に入っていく日は近いとお母さんにお話しました。

 

 

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

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