ADHDへの理解と対応

その他

■…「前思春期」と「自分ぼめ」

■…AD/HDの子とテレビゲーム

 


■…「前思春期」と「自分ぼめ」

 Kくんは、いつも身体を動かしている小学校5年生の男の子です。先日話をしていたら、突然「逆立ち」をしはじめたのには驚きました。1日に何回か、急に逆立ちをしたくなるそうです。そういう気持ちになったら、逆立ちをしないではいられないと言います(逆立ちが好きなAD/HDの子は、Kくんで2人目ですが)。   そのKくんが「いま不調」と話します。そこで、3年生の時から彼の担任をしている先生と話をしました。授業中に大声を上げる、「調べ学習」への意欲が見られないなど、学校での様子はよくなく、彼自身混乱しているようでした。

●前思春期

 大人の身体になっていくのが思春期ですが、その前に脳のほうが一足先に成熟するとされます。身体が大人で、心は子どもでは危険です。まずは脳(ソフト)が大人用に組み代わり、その後に身体(ハード)が成熟していけば、自己コントロールができます。脳が変化していくこの時期を「前思春期」と言います。おおむね10歳前後から始まるとされます。この時期には、さまざまな面で変化が見られます。

●変わる記憶システム

 おおむね、9歳くらいまでの記憶は映像であり断片的とされます。ばらばらの写真という感じです。子どもの特徴として、トランプの「神経衰弱」が得意なことがあげられます。それは、映像的記憶が強いからとされます。  一方で大人の記憶は、映像的記憶でなしに意味やエピソードが重要な手がかりとなります。たとえば、1枚の家族の写真から、いろいろなエピソードやその場で感じたことを思い起こしたりします。
 前思春期では、大人の記憶システムに移行していきます。記憶の容量も増えるようで、1度に2つ、3つの質問を覚え、答えられます。いくつものことを同時に覚えられることで、調理など仕事の〈段取り〉が立てられるようにもなります。
 大人の記憶システムになることで、自分のことを振り返れるようにもなります。自分が考えているようには振る舞えないAD/HDの子の中には、振り返ることで自己嫌悪を強める場合があります。話を聞いてあげたり、過剰にマイナス評価している場合には修正する必要があります。

●大人と同じような時間感覚に

 子どもは昨日や明日ということばを、3、4歳の頃から使いはじめます。ただこの時期は「昨日=過去のすべて」「明日=これからのすべて」と捉えているとされます。1年先のコンクールを想像して、毎日ピアノの練習に励むといった、大人と同じ時間感覚はこの頃から始まると言われます。
 ある小学校4年生の子が、「毎日が、30回とか31回続いて1ヵ月だよね」と感慨深そうに話すのを聞いたことがあります。その子にとって、それまでの時間は刹那的で連続していなかったのでしょう。

●永続性を持ちはじめる「好き」の気持ち

 女子大生に、小学校高学年で強く残っている思い出を聞くと、ほとんどの人が「友達関係」をあげます。その内容は、「仲間はずれにされた」「親友と思っていたのに無視された」など、「好き―嫌い」に関するエピソードが大半です。この時期に、いったん嫌われると関係は元に戻らないという認識が生まれるようです。   小学校高学年で転校した友達と、文通やメールのやりとりをする子もいます。一度仲良しになると、その気持ちが変わらないで続くことがわかります。これより以前だと、やりとりの関係が持続しないようです。
 AD/HDの子の中には、この頃から友達を求めはじめる子がいます。ただ関係づくりがうまくいかない場合もあり、友達がいる子を羨ましがることばが聞かれたりします。大人が間に入って、関係づくりを手伝うことも必要です。

●自己犠牲の気持ち

 自分はピッチャーをやりたいけれども、他の子が投げたほうが試合に勝てると思った時に、その子にポジションを譲ることができるようになります。個人の思いよりも、チームの目的が優先されるとも言えます。
 「調べ学習」にあたっても同じです。自分と他の子との能力を、知らず知らずのうちに測っています。そして、最大効果が出せるように役割分担しようとします。ところが社会性が幼いために、そこまで成長していないAD/HDの子の場合、そういう認識に立ちきれません。自分のやりたいことを主張したり、すねてやろうとしなかったりします。こういう姿に、他の子たちはいらいらを募らせたりします。大人の介入と調整が必要な場面です。

●「自分をほめる」

 前思春期で最も重要な変化は、自分の中に「自分をほめる」システムができることだと思います。それまでは大人や周りの子の評価基準だけで、自分のことを測っています。大人が「よい」と言えば、それがよいことです。それが変化して、自分自身をほめる、認める内部基準ができてきます。
 「自分で、これは自慢できるな、ということがありますか?」と質問すると「本をよく読む」「けっこう足が速い」などの答えが返ってきます。自分自身を認められる心理システムができれば、周りの評価に振り回されなくてすみます。自分自身の考えを形づくっていく際の、確かな土台ができるとも言えます。
 Kくんの不調、混乱は、「自分ぼめ」ができないことが大きな原因のようでした。この時期のAD/HDの子に、しばしば見られる現象です。自分が自慢できることを一緒に探したり、できるようにしていく関わりが大切のように思います。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

 


■…AD/HDの子とテレビゲーム

学校では仲間の中に入れず、家ではひとりでテレビゲーム三昧になってしまいがちだったTくん。テレビ相手では、勝ち負けばかりで相手への思いやりなどの気持ちは育ちようがありません。そんなTくんへの関わりを家族の対応もふくめてご紹介します。

 前号で、小学校の低学年あたりから、子ども集団に同調圧力が働き始めると述べました。この頃から子どもは、休みの日などに友だちと約束して遊ぶようになります。親よりも、友だちとの遊びが優先されるようになります。友だちとの遊びが面白く、ひとりでいると「つまんない」と言ったりします。他の子の存在感が増し、大人から離れていきだす姿とも言えます。


●他児への関心の高まりとちょっかい

 いまは中学生になったTくんですが、小学校の低学年の頃は、目立って落ち着かない子でした。見学に行くと、授業中に隣の子の本や鉛筆を取ったりしてからかいます。「やめろ」と言われると、さらに他の物を取るなど歯止めがききません。先生が叱っても、繰り返していました。他の子への「ちょっかい行動」だけでなく、負けるのを嫌がって大騒ぎすることも問題となっていました。
 「ちょっかい行動」や「競い合い」を求めるTくん。他の子への関心があるのはたしかです。とはいえ他の子にとっては、思いもよらない行動をとるTくんは迷惑な存在だったのでしょう。休みの日に遊んでくれる相手もいず、家ではテレビゲーム三昧でした。ただ、テレビ画面に向かって「死ね」「バカ」など罵詈雑言を吐き続けます。お母さんによれば、こういう時には目つきが変わるとのことでした。テレビゲームでは、きっと満たされぬものがあるのでしょう。それが恨み節のようなことばになったのかもしれません。
 Tくんには3つ違いの弟がいるのですが、テレビゲームに負けるとこの弟に八つ当たりをします。弟はお兄ちゃんが怖くなり、近づかなくなりました。

●競い合いの中で学ぶもの

 勝ち負けを競う、格闘技系のゲームに熱中する子がいます。勝ち負けを意識し、勝ちたいと強く思うようになるのは、一般的には4〜5歳からです。この時期、負けると悔しくて、大騒ぎやすねる姿が見られたりします。ただこれらの行動も、徐々におさまります。競い合いの経験の中で、勝ち負けだけでなく、他のことを学び始めるからとも言えます。たとえば、勝ち負けの結果よりも「ルールを守ることの方が大事」という認識もそのひとつです。結果よりも、自分の態度やプロセスに目を向けるようになると言えます。
 また他の子を応援したり、負けた子を慰めることも学びます。結果だけがすべてではないことがわかり始めます。この他にも、相手の力量を見抜く力や、話し合いでルールを変えることができるようになります。子どもたちは、競い合うことでいろいろなことを(人生に必要なことばかりですが)、学んでいるとも言えます。

●勝ち負けの次元から成長しない

 競い合いを通して学ぶには仲間が必要です。Tくんは、他の子たちと競争したいと思っていました。しかし負けると大騒ぎです。他の子たちにすればとっくの昔に卒業した行動です。すぐに泣いたりするとうるさがられ、競い合いへの参加も嫌がられます。
 学校では仲間の中に入れず、家ではひとりでテレビゲームです。テレビ相手では、勝ち負けばかりで相手への思いやりなどの気持ちは育ちようがありません。結果だけを競う、競い合いの初期の段階にとどまってしまいます。
 3年生になり乱暴も増え、クラスの中で完全に浮いてしまいました。他の子たちからは、集団で仕返しされることも出てきました。担任の先生は、子どもどうしの調整に入るようになりました。

●他の活動で時間を過ごす

 Tくんが落ち着くようになったのは、4年生になってからです。ある時、頭にきて、テレビゲームを壁に投げつけ壊してしまいました。ご両親は、新しいゲームは買ってやらないことにしました。Tくんは大騒ぎを続けたようですが、ご両親は負けずにがんばりました。あわせて、休みの日にハイキングに出かける、学校から帰ってきたらお手伝いをさせるなどで、時間を過ごさせるようにしました。
 Tくんは、その頃から弟と遊ぶようになってきました。これで、社会性が身についてきたのかもしれません。自然の成熟もあったのでしょうが、勝ち負けへのこだわりも弱まり、負けても落ち着いて遊べるようになってきました。
 テレビゲームから卒業した中学生や高校生にきくと、「自分では止められない」とも言います。とくにAD/HDの子は、同じことを繰り返し考えて、そこから抜けだせなくなることがあります。どうでもいいようなことをいつまでも話したり、やったりします。本人ひとりの力では、わかっていてもなかなか止められないのでしょう。とくに刺激の強いテレビゲームです。繰り返し遊ぶうちに、脳が一種の「中毒状態」になってしまうのかもしれません。

●勉強への意欲を弱めるテレビゲーム

 脳神経の研究者で精神科医のエイメン博士には、二人のAD/HDの子がいます。博士は、テレビゲームはAD/HDに悪影響を及ぼすと述べています。テレビゲームでは快感物質といわれるドーパミンが放出され高揚感を経験すると言います。問題は「テレビゲームでドーパミンが一度に出た後にはドーパミンは在庫不足となり、勉強や家事などをやろうという意欲が湧かなくなること」とエイメン博士は考えています。もともと、好きなことにしか意欲を持ちにくいAD/HDの子たちです。ゲーム中毒になると、毎日の生活を送る上で必要な意欲が弱まり、さまざまな問題が起こってくるのでしょう。小さいうちからゲームをする時間に気をつけ、中毒にさせない対応が必要と思います。

 

(参考)D・エイメン著「わかっているのにできない脳」花風社 2001年


■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士 

 

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