ADHDへの理解と対応

自己修正する力を育てる

 

■…育てたい自分の考え、自分の意見

■…間違った考えを支持する世界

■…考えを修正できる力(上)

■…考えを修正できる力(中)

■…考えを修正できる力(下)

 


■…育てたい自分の考え、自分の意見

 「考えがなかなか修正できない」という問題を取り上げてきましたが、「自分の考えを持ち、判断し、行動できるようになること」は、発達の大きな目的であるのは確かです。ディベートを活用したトレーニングの様子も交えながらご紹介します。

ムページが補強した例を挙げました。いずれも、問題として取り上げてきました。ただ「自分の考えを持ち、判断し、行動できるようになること」は、発達の大きな目的であるのは確かです。

 これは筆者の体験ですが、友達の考えをそっくりそのまま真似して言ったら、「それは○○くんの考えでしょう。自分の考えを言いなさい」と母から怒られました。そこで、本を読み、そこにあった意見を話すと、「知ったかぶりはいけない。自分で考えた意見こそ大事」と父にたしなめられたことがあります。

●求められる自分の考え
 小論文テストで評価されるのは、知識量よりも自分の考えを、説得力ある内容で書いてあるかどうかです。自分の考えこそ大事とは言え、これが簡単なことではありません。自分なりの意見をまとめ表現するためには、積極的に学び、考えなくては難しいとも言えます。
 小論文ほど大げさな話ではなくとも、子どもはもともと、自分なりの判断、考えを主張しながら大きくなるとも言えます。1歳前後の子どもでも、たとえば何かを飲むか飲まないか、食べるか食べないかを自分で決め、通そうとします。
 2歳前後から、自分でこうやると決めたならば、自分流で行動しようとします。いわゆる第一次反抗期です。大人にとっては、子どもへの対応が急に難しくなる時期です。「自我が出てきた」と言われますが、子どもにとっては「自分の考え」を確立するための第一歩と言えます。

 私たちの考えの根深いところに、「自分の考えを持つことが人間の姿」という考え方があるのでしょう。だから、自我が出てきた時に、要求のままに応じるか、あるいは抑制するかで、大人は悩むのでしょう。要求のままにすれば、あるいは「わがまま」に、抑制し過ぎれば「ロボット人間」になるのでは、と恐れます。
 内容によって対応は変えるべき、と考えつつも、実際の場面では悩みます。悩みながら、伝わる伝え方を学んでいったりします。親にとってこの時期は、親になるための大きな関門なのかもしれません。

●自分の考えを聞いてほしい
 AD/HDの小2の男子は、ある日、学校から突然家に帰ってしまいました。お母さんが理由を聞いても泣いて怒って話になりません。時間をおいて再度たずねると、先生が自分の教科書の漢字に、勝手にルビを振ったことが怒りの原因でした。本人はその場でそれが表現できず、気持ちが落ち着いてからやっと、自分の思い、考えを表現できました。

 AD/HDの子は、感情が先に立った、衝動的に見える行動をとりがちです。日常的に、「どうしてそう思うか」と聞き、自分の考えを表現することに慣れさせたいものです。本人なりの思い、考えを適切に表現できるようになれば、まわりとのトラブルは大きく減ると思います。

●ディベート(議論)する
 私たちは、AD/HDやアスペルガー症候群の中・高生たちを対象に、グループ指導を行なっています。指導のひとつとして、参加者を二つのグループに分けたディベートをしています。ちなみに、これまでで、もっとも盛り上ったテーマに、「犬派」と「猫派」があります。犬(猫)がなぜ好きか、どうして猫(犬)でないのかという意見を幾つも挙げてもらいます。
 ディベートをはじめた頃は、ある子は「犬だから好き」という意見を繰り返す姿が見られました。「なぜ好きなのか、自分の考えを話す」ように話しました。
 意見の中には、非難もあります。「猫はくさいからイラナイ」「猫なんてダメ」というような意見です。こういった意見で、話し合いが止まってしまったら、「では犬はくさくないのか」とたずねたりします。それがきっかけで、「においは人によって感じ方が違う。猫のにおいをくさいと思うのは仕方がない。でもそのにおいはダメということではない」という意見へと集約されたりします。

 ことばの表現力が十分でない子もいます。考えの中身は、年齢よりも幼いかもしれません。偏った意見もあります。ただこのディベートを通じて思うのは、参加者の一人ひとりが、自分なりの意見を持ち、発言したいという意欲が、潜在、顕在を問わずにあることです。慣れてくれば、考えを述べることは苦痛ではなく、喜びになってくると感じます。

●会話のタブーと体験不足
 ディベートをはじめた頃は、しつこく自説に固執する、相手を非難するなどの姿が見られたと述べました。この他にも、相手の話を聞かず一方的にしゃべる、すぐに感情的になってしまうなど、「会話のタブー」とも言うべき姿が見られていました。
 それが回を重ねるごとに、少しずつ会話のルールが守れるようになってきました。ことばの問題は確かにあります。また、障害によるとも考えられます。ただそれだけではなく、コミュニケーション体験そのものの、絶対量が不足していると感じます。体験不足のために、会話のルールを学べなかったのではないかと思うようになりました。

 参加者のひとり、ある男子高校生は、近頃お父さんに「話をしよう」と呼びかけるようになりました。これまでは、そういう姿はありませんでした。彼は学校のこと、将来の仕事のことなどについて、自分の考えを話すそうです。お父さんが嬉しいのは、自分の考えを言えること、またお父さんの考えを息子がしっかりと聞いてくれ、会話らしい会話がやっと生まれたことです。
 親子で互いに自分の考えを伝え合う、とても充実した時間だろうと思います。

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■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士


■…間違った考えを支持する世界

 AD/HDの子のなかには、ユニークで面白い発想をする子がいますが、相手の気持ちへの配慮に欠けるためトラブルを起こしがちです。中学2年になる女の子の姿を通して、適切な働きかけ方を考えます。

 

ころころした体型の彼女は中学2年生。彼女の手足を動かしての話にはテンポと冴えがあり、つい笑ってしまいます。将来はお笑い芸人にと、保健室の先生から言われたとのこと。彼女自身の夢は、舞台俳優です。彼女も、AD/HD(注意欠陥・多動性障害)と診断されました。

●面白くユニークな発想ではあっても

 AD/HDの子のなかには、ユニークで面白い発想をする子がいます。なかには、それをハイな状態で、大きな声でしゃべり続ける子がいます。
 聞いていて面白いこともあります。ただ、いつも一緒の同級生にはうるさく感じることもあるでしょう。ところが本人には、そういうまわりの気持ちがなかなかわかりません。静かにしたほうがいいのに、気を引こうと逆にもっとハイな調子でしゃべったりします。そういうこともあって、ますますまわりから疎まれ、距離を置かれてしまいます。
 彼女は中学1年になったばかりの頃から、クラスでひとり浮いた存在になりました。彼女は、他の子たちとお話したり、遊んだりしたいのでしょうが、クラスの子たちからは、バカにされ、「ヘンな子」扱いされました。まわりからの評価に過敏になるのが中学生です。彼女は、マイナスの評価を挽回しようと、さらに活発にしゃべったようです。もちろんそれは逆効果で、ますます相手にされなくなりました。中2になってもそれは変わらず、彼女は同じような状況のなかにいました。


●表現したい気持ちとその中身

 その彼女がホームページを開設しました。身近な同級生とは、うまくつきあえません。しかし、表現したいという気持ちは強く、自作の詩やマンガなどを、ホームページで披露するようになりました。そのなかに日記もあり、学校での出来事などを書いていました。
 問題が起こった原因は、ホームページのある日の日記でした。彼女は、クラスの女の子たちからいじめられたと書いてしまいました。これを知った同じクラスの女の子たちが、猛烈に反発しました。彼女は、人の気持ちがわかりにくいところがあります。一方で、何かを思い込むとそれがなかなか変えられない面があります。トラブルの原因はささいなことで、彼女の誤解が原因でした。
 当然ですが、「いじめた」と書かれた女の子たちは彼女に謝罪を求めました。また、ホームページに自分が間違っていたこと、それからみんなへの謝罪文を掲載するように求めました。ところが彼女はかたくなに謝りません。結局、これまでのこともあり、教室にますます居づらくなり、保健室への登校が多くなってしまいました。

 ホームページは、時に思いも寄らないような影響力を持ちます。彼女は、自分の日記を公表することで何が起こるかをわかっていませんでした。想像力が不足していました。ただそのことよりも注目したいのは、彼女がかたくななまでに謝らなかったことです。


●無責任な同情と応援

 実は、彼女の日記には読者がいました。その人たちが、「いじめられた」との話に共感しました。そして彼女に同情し、応援するようなメールがいくつか届きました。このことで、彼女は自分の考えが一方的とか、日記に書いたことが悪いとは思えなくなりました。このことにこそ、大きな問題がひそむように思います。

 先日ある県で、妹を殴って重傷を負わせた中学生がいました。彼は殺人をとりあげたホームページを読み、人を殺したいと思ったそうです。友達がいれば、自分の考えのおかしさを指摘してもらえます。そのことで、自分の考えを修正できます。ところが、間違った考えを無責任に面白がり、「それでいい」と認めてくれる世界が一方にあります。
 多くのAD/HDの子たちは、判断力が弱く、また批判してくれる友達も少ないのが現実です。そういう子たちのなかで、ホームページを見て自分の間違った思いつきを実行に移す子が出たとしても、まったく不思議ではありません。

 前回まで、「考えを修正できない」ことについて述べました。こればかりでなく、注意しなくてはいけないのは、本人の間違った考えを強めてしまうような影響力を持つ世界があることです。
 たしかに、インターネットの世界は便利で刺激的です。とはいえ、その世界は、繁華街とは違うものの、無防備な子どもにとっては同じように危険と感じています。

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■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士


■…考えを修正できる力(上)

今回は、自分の考えを修正できる力について考えてみます。好きなことには夢中になりやすいAD/HDの子どもたちですが、自分の考えを周りに合わせて修正することは苦手です。自己修正という視点から子どもたちの関わりを考えます。

 

 前回、テレビゲームについてふれました。それに関連しますが、日本小児科医会では、「テレビやゲームなど、メディアとの接触が子どもの心身の発達に悪影響を及ぼしている」として、2歳までのテレビ・ビデオ視聴を控え、それ以降もメディア接触は1日2時間までを目安とする、などの提言をしました。副会長は「メディアの影響を受けすぎた子どもたちがだんだん増え、医療現場でも問題になっている」とコメントしています。これまでも暴力映像を長時間見ることと、後年の暴力的行為とは関係があるとされてきました。小児科医会では、あらためてそのことを確認するとともに、「テレビゲームは1日30分が目安」などを挙げています。

●強い刺激を求めだす脳  

 人間の身体には、栄養状態や体温などで体内の環境を一定に保とうとする働きがあり、それを恒常性維持(ホメオスタシス)と言うそうです。最近の薬物やアルコール依存の研究では、アルコールなど身体に取り込んだ物質が排出されると、このホメオスタシスが働き、再びアルコールが摂取したくなるとのことです。感情にも同じような現象があり、幸せすぎた後には不安や心配を強めて、心のバランスをとろうともするそうです。
 脳にとって、テレビゲームのように強い刺激では、終わった後、大きな虚脱感が襲います。虚脱のマイナス気分が大きいほど、脳は均衡をとるためにもっと激しい刺激を求めるとのことです。この現象を「依存のデフレスパイラル」と、依存の研究者の廣中直行先生は表現しています。

●好きなことに過剰に熱中する

 AD/HDの子たちの中には、「テレビゲーム依存」と言える子が確実にいます。AD/HDの子は、好きなことにとても熱中します。この熱中ですが、ひとつのことを考え出すと、脳そのものがそれから離れにくくなるという特性から起こるのでは、と思います。そういう特性がテレビゲームに向かえば、「ゲームいのち」となっても不思議ではありません。「依存させない」ためには、大人の指導が必要と感じます。

●自分を修正する

 前々号で小学校の低学年クラスでは、「同調圧力」が働くと述べてきました。この圧力が読めないと、子ども集団になかなか入れないとも書きました。
 ここで、「子ども集団に入る」ということについて、行動などの修正という面から考えてみます。行動などの修正とは、集団に入ることで自分の言動などを変え、それで仲間の一員になることを言います。
 保育園で見ていると、4歳過ぎになる頃から子どもは、他の子の間違った発音を指摘し、正しい音を教えるようになります。たとえば大人がカラスを「タラス」と言えば、「カラスでしょ」と直してくれます。ある子が傘を「カタ」と発音すると、「それはカサでしょ、カタじゃないよ」と教えます。間違ったことば遣いにも修正が入りはじめます。
 たとえば運動などで、「一列に座り、並んで待つ」という場面があります。前の子が終わると、列に並ぶ子たちはお尻を動かし、列を前に進めます。列を詰めない子がいると、後ろの子が背中を押したりして前に進むよう促します。このような「行動の修正」が、5歳前後から見られはじめます。

●考えを修正する

 あそびのルール決めが、子どもどうしの盛んな話し合いの中で決まりはじめるのは、6歳前後からのようです。子どもどうしのルールは、コロコロ変わります。だから「ずるい」の言い合いになったりします。ここで重要なのは、互いの考えを披露しあい、それをもとに自分の考えを変えていく点にあるのではないかと思います。大人の指示を聞いて従うことが多い段階では、自分の考えはまだはっきりとしていません。子どもどうしの対等な話し合いのなかで、自分の考えを主張し、相手の考えも知るようになってきます。そして、考えのすり合せの上であそびが成立します。
 子どもにとって仲間集団が必要な理由のひとつとして、仲間の中で自分の行動や考え方を修正できるようになることがあげられます。友だちがいない子の問題点は、自分の行動や考えを「それはおかしいよ」「それは○○でしょう」と、自然な形で修正提案をしてもらえないことにあると思います。このために、自分の間違った、修正すべき行動や考え方に気づけません。結果的に自分のやり方、見方が正しいと思い込む可能性が出てきます。
 大人が強圧的に間違いを指摘すると、AD/HDの子では従わなかったり、反抗的な行動に出る姿が見られます。これは互いの考えを知り、そこから修正が始まるといった仲間との経験不足から起こるのではないかと思います。考える幅に狭さがあり、相手の考えを許容できる量が少ないとも言えます。

●相手を強く非難する

 脳そのものの熱中しやすさと、考えを修正する経験の不足とが重なって、AD/HDの子の中には、自分の考えは正しいと確信し、相手の間違いや失敗を強く非難する姿が見られます。相手の考えを許容できる幅、量の問題が、この姿につながっているのかもしれません。ただ自分の行動はいい加減だったりします。  
 当然ですが、このような非難は他の子には、自分もできていないので一方的な、わがままな主張に思えることでしょう。不当な言いがかりとも感じるでしょう。このために、他の子たちから強い反発を受けてしまいます。AD/HDの子には、相手の考えを受け入れることを教える必要があります。具体的な対応法については、次号でお話したいと思います。

(参考)廣中直行著「やめたくてもやめられない脳」ちくま新書 2003年

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

 

 


■…考えを修正できる力(中)

今回は、自分の考えを修正できる力について考えてみます。好きなことには夢中になりやすいAD/HDの子どもたちですが、自分の考えを周りに合わせて修正することは苦手です。自己修正という視点から子どもたちの関わりを考えます。

●みんなのほうが悪い

 小学校2年生のTくんは、「先生の声が聞こえないんだよ」と訴えます。「先生が『静かに』と言ってるのに、みんながうるさいから」とのことです。彼はそのうちに、学校に行くのをしぶるようになりました。ではTくん自身は授業を静かに聞いているのかと言えば、どうもそうではないようでした。授業中に、大声をあげて他の子を非難したりする、とお母さんは言います。「非難してはダメ」と繰り返し注意してもやまないと続きました。Tくんに、そのことが本当かをたずねました。彼はそのことを認めはするものの、先生の話を聞かないみんなのほうが悪いと言います。小学校に入って、動きそのものは落ち着いてきたものの、新たな問題の出現にお母さんは困ってしまいました。


●「ぼくの話を聞いてくれない」

 小学校3年生のKくんは、友だちと仲良くあそべません。もともと感情のコントロールができにくく、ときに乱暴してしまいます。あそびのルールを自分勝手に変えてしまうのが問題と、学童クラブの先生は言います。本人に話を聞くと、「みんなは、ぼくの話を聞いてくれない」と嘆きます。実際には、意見を聞いていないのはKくんのほうなのですが。


●「誰が決めたのか」にこだわる

 小学校5年生のAくんは、何事にも誰が決めたかを知りたがります。たとえば、日曜日に家族でどこかに出かける時に、外出の目的や場所を誰が決めたかを親に聞きます。学校でも同じで、スケジュールの変更などがある場合に、決定した先生を明確にしないと「大人は命令してばっかり」と非難してきます。

 ・・・・・・以上、3人の子どもたちの姿を紹介しました。この3人には、実は共通したものの見方があります。

●違うのは「基本の認識」

 Tくんの非難の根拠には、「先生の言うことを聞かない=悪い子」という図式があります。ところで担任の先生は、クラスの子たちがうるさくて問題だ、とは思っていません。とは言え、たしかにおしゃべりをする子はいます。Tくんが大声で他の子を非難する姿を横にして、対応に苦慮しているとのことでした。
 そこでTくんに、「うるさいかどうかを決めるのは、君じゃない。先生が決めること。みんながうるさい時に注意するのは、先生のお仕事」と話しました。そして、「人のことをあれこれ言わない」と続けました。
 子どもたちは1、2歳の頃から、自然に「大人の役割」が何かを学んでいきます。Tくんは、先生の役割ということへの理解が弱く、他の子を「悪い子」と一方的に決めつけ非難します。ここで非難することを注意しても、基本の認識が違いますから耳に入りません。考えも変わりません。
 Tくんに必要なのは、「人にはそれぞれ役割・お仕事がある」という新しい見方を学ぶことと言えます。

●決定権はぼくにある

 「話を聞いてくれない」と嘆くKくん。
 当たり前ですが、子どもたちからは自分勝手と思われています。彼の誤解は、みんなは彼の意見を聞き従って当然、と考えている点にあります。
 幼児期から小学校の3、4年くらいまでは、子どもたちだけであそんでいると、あそんでいるうちにものの見方やルールが変わっていくのがわかります。たとえば幼児期では、仲間と話しているうちに、積まれた積み木が一瞬でビルになったり、怪獣やロケットになります。小学生の草野球では、点差が開いて面白くない時には「盗塁なし」などが決められたりします。この頃の子どもたちの、ものの見方やあそぶ際のルールは「生き物」で、有為転変は常のことと言えます。
 これはきっと、自分の考えを話したり、他の子たちの考えを聞くための時期だからでしょう。この間に自分と他の子の考えが違うことを知り、その上で互いの考えをすり合わせ、納得できるようになります。妥協も含め、柔軟な思考のできる大人になるための訓練期間とも言えます。
 Kくんには一人ひとりの意見を聞くこと、ルールはみんなで決めることを繰り返し話す必要があります。時間がある時には子どもたちの意見を平等に紙に書き、それを見ながらルールを決めることを学童クラブの先生に提案しました。
 自己中心的に思えるKくんですが、すべて自分で決めていい、という考えをくつがえさない限り、「話を聞いてくれない」の嘆きは続くように思います。

●「〜だから○○になった」という考え方

 Aくんが「決定した人」にこだわるのは、Kくんとは逆に「自分には決定権はない」との認識があるからでしょう。
 ただ、「誰か」ばかりが気になり、「どういう理由」で決めたのかは興味がないのが問題です。
 AD/HDの子のなかには、ゲームの勝ち負けやルールにこだわり、ゲームそのものを楽しめないのではないかと思わせる子がいます。こういう傾向は、小学校の4、5年から強まるようです。
 Aくんやこういう子は、手続きにこだわるばかりで、たとえば「〜だから○○になった」というように、折々のさまざまな事情を考慮に入れるのが苦手です。事情を比較・検討し、妥当かどうかを判断するのが難しいとも言えます。だから、「決定した人」などのわかりやすい基準で判断してしまいます。

 ・・・3人には、共通したものの見方があると述べました。それは決定権についての一面的な、幼いとも言えるとらえ方です。こういう子の場合は、行動だけを注意してもなかなかやみません。幼い考え方にせまり、適切なものの見方を理解させないと、本当には変わっていかないと言えます。

 

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

 


■…考えを修正できる力(下)

今回は、3回連続でご紹介した「考えを修正できる力」についての最終回です。AD/HDの子どもに見られる「ワーキングメモリー」の弱さ。その特徴と弱さをおぎなう対応法についてご紹介します。

 AD/HDの子どもで、今までで一番幼い時から付き合ってきたのはSくんです。彼と初めて会ったのは1歳4ヶ月の時でした。心理テストをする部屋の片隅には消火器が置いてあります。彼は部屋に入るなりそれに向かって、一直線に突進していきました。1歳を迎えてから、まだほんの数ヶ月しか経っていない子どもです。赤ちゃんみたいな子の走る姿に驚きました。
 お母さんはSくんを追いかけ、止めながら「歩いたと思ったら、もう走ってるんです」と話されました。そのSくんが、今春中学1年生になりました。これまでには、さまざまな出来事があり、いくつもの強烈な思い出があるのは、読者の皆さんの多くと同じです。中でも筆者が忘れられないのが、「ふたつのこと」を覚えられるようになった日です。

 その日彼に、「昨日、学校で何をした?」と聞きました。そしてすぐに「あさっては日曜日だけど、何か予定はある?」と続けました。それまで彼は、ふたつの質問をした時に、どちらかひとつにしか答えられませんでした。それができるようになったのが5年生の時でした。彼は5年生、それに6年生の2年間で急速に落ち着き、まわりの子たちとのトラブルが減少、また計画的な行動がとれるようになってきました。この変化は、記憶の力と密接な関係があるのではないかと思っています。

●「ワーキングメモリ」に問題がある!

 
AD/HDの世界的な権威であるバークレー博士は、AD/HDの原因として、ワーキングメモリの問題をあげています。
 たとえば、鍋で煮物をしている時に電話がかかってきたとします。電話で話をしながら、鍋のことがときどき頭に浮かびます。今やっていること、この場合は電話での話です。それとは別のこと、火にかけた鍋ですが、このことも頭にあります。ふたつのことが同時にできるから、電話でのやりとりとともに、焦がさないで料理ができます。今やっていることとは別に、頭の中で点滅している記憶が「ワーキングメモリ」です。

 ここで〈18+27〉という計算のプロセスを分解してみます。
@8と7を足し、15になる
A1を置いておく(10の位)
B1と2を足し3になる
C置いておいた1と3を足す
D45となる

 この中で、Aの「1を置く」、これが「ワーキングメモリ」です。計算問題で、繰り上がり、繰り下がりがよくわからなかったり、ミスをする子がいます。中には、ワーキングメモリに問題が認められる子がいます。

●ひとつのこと、同じことしか考えられない

 
同じことばかりを言ったり、やったりする子がいます。「しつこい」と思ったりしますが、ワーキングメモリに問題があり、同時にいろいろなことを考えられないのでしょう。
 さて、このワーキングメモリの働きに問題があると、以下のようなことに支障が生じると思われます。

@イメージを思い浮かべる
 「桜、風、川」の3つの語から、ある風景を思い浮かべるとします。これが、ひとつの単語からしか想像できないとすると、そのイメージは3語の内容とは違うものになります。AD/HDの子の中にはイメージがわきにくい子がいますが、ワーキングメモリに問題がある可能性があります。

A長い文章を理解する
 イメージがわきにくいと難しくなります。

B比較検討する
 
ふたつのことを、同時に考え合わせるのができなければ、当然ですが比較検討することは難しくなります。叱られるとわかっていてもやったりするのは、別のことを考えつかないからかもしれません。したがって、ワーキングメモリの働きが十分でないと、考えの修正ができにくくなるのではないかと思います。なお、以下のような面にも問題が起こると思われます。

C優先順位をつける
D同時に複数の作業を実行する
E反対のことを類推する

●ワーキングメモリの力を補う
 
頭の中で、あれこれ考えるのが難しい場合、何らかの補助的な手段を使ったほうがいいでしょう。

◎気づきやすいようにする
 
手に、重要なことについてメモ書きする人がいます。あまり見栄えのよいものではありませんが、しかし忘れて失敗するよりもいいでしょう。手に書く、やるべきことを紙に書き壁に張っておくなどがあります。
 話し合いなどでは、各自の意見を黒板などに書き、いろいろな考え方に気づかせ、また比較検討の際の助けとします。

◎思い出しやすくする
 「座って授業を受ける」「休み時間にトイレに行く」などの行動目標を表に示し、それができたかどうかを評価する、これもワーキングメモリの補強策と言えます。繰り返す中で、行動目標が頭の中に残れば、表はいらなくなります。
 うまく思い出せない時には、料理のレシピ、手順表、持ち物表、メモ帳などがあります。思い出すのを強要するよりも、思い出せない時にどうしたらよいかを教えたほうが現実的です。なお、「大切なことは3つ」など、考えるべき内容を数で強調しておくと、思い出す時の手がかりとなります。

◎振り返らせる
 グループ指導では、今日一日の自分の言動を振り返る時間を設けています。はじめは、これができない子がいます。振り返る力と、自分の行動を修正する力には関係があるように思います。まずは3行日記でもいいので、今日のことを振り返る習慣をつけたいものです。

■月刊 発達教育より 湯汲 英史(発達協会王子クリニック)言語聴覚士
小倉 尚子(発達協会王子クリニック)言語聴覚士

 

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