社会性の発達について
■やりたくないことは、やろうとしない

 今月も「良い−悪いの時代」のお話です。何をしても良く、回りの大人が危なくないように、と守ってくれていた時期から、自分で身を守るためにも、「だめ」とか「アップ」と言われ、やってはいけないことがあることを学びます。「良いこと」「悪いこと」という言葉でわかるだけではありませんが、二つの反対の考え方がわかっていくのは、標準的な発達では、1歳半から2歳半前後の時期です。
 この時期には、「良い−悪い」だけでなく、自分と人とのさまざまな関係を学びます。たとえば、人には「名前」があることがわかり、自分の名前とほかのこの名前のちがいがわかるようになります。誰の名前でもお名前を呼ばれると「ハイッ」と手をあげる時期を経て、「ハイッ」と手をあげるようになります。自分と人とが違う存在なんだ、とちがいを感じることは、それを言葉で伝え合う必要性も生じさせ、言葉の発達を促すことにもなります。この時期には、子どもの語いが急速に増加すると言われていますが、大いに関係があるのでしょう。
 また、人から見られている「自分」という認識が育つのも、やはり1歳半から2歳頃といわれています。これは、子どもに鏡を見せ、その反応を観察し、映った像を自分だととらえているかどうかで判断されます。鏡に映った像を見て、他人であるかのようにそれに触ってみる時期、鏡の裏側に何かあるのではないかと、裏を探ったり、のぞき込んでみたりする時期などを過ぎて、自分の姿だとわかるようになります。人から見える「自分」がある、とわかってきたわけです。
 このように「自分」の認識には、何かをする、主体者としての「自分」と、人から見た「自分」の二種類の自分があると言われています。
 人からどのように見られているか、といった人から見た「自分」の意識は、なかなか育ちづらいのですが、まずは、何かをするという「主体者」としての「自分」と「人」を意識し始めることが基本です。今月号では、自閉症のYくんをご紹介します。

●やりたくないことはしないYくん
 4歳になる自閉症のYくん。最近になって、それまではほとんどなかった、人へのつかみかかりが出てきました。気に入らないことをやらされるとき、おもちゃをほかの子に取られた時など、保育士や他の子につかみかかっていくそうです。これまでは、比較的おとなしい子だったので、お母さんもこの変化に戸惑い、どうかかわったらよいのかがわからないようでした。
 クリニックで、発達検査を行なったところ、着席してとりくむ、という習慣がついていて、席を立ってしまうことはありませんでした。型はめでも、形合わせでも、○△□はさっさとはめたり、同じ形の上にのせることができます。ただ、やった後に、くすぐったり、なでたりと、いろいろとほめてみても、それがよくわからないようです。机に手を打ち付けたりして、何となく不機嫌です。1回はやるけれど、やったから、もういいだろう、と型はめを私のほうに押しやり、片づけろ、と言わんばかりでした。積み木でも、3、4個を積んではみましたが、「もう、いい」とでもいうように、積み木箱の中に乱暴に押し込みます。「まだ、まだ。おかたづけは、まだ。もうちょっとやってみようよ」と声をかけ、積み木を出そうとすると、怒って私の腕につかみかかろうとしてきました。そういう時には、私は腕をつかまれないように引いて、逆にYくんの手を止めて、「ダメッ」と強く言いました。そんなやりとりが3回くらいあった後、言葉で「ダメッ」と言われると、少し行動が止められるようになっていました。
 言語理解やおしゃべりについては、「ちょうだい」と言われて物を渡すことがようやくできるようになったところで、自分からお話できる言葉は、まだありません。

 さて、Yくんの行動の問題をどうのように考えたらよいでしょうか。まず、これまで、比較的おとなしい子だったとお母さんが言うように、行動を止められる場面も少なかったのではないかと考えられます。やってはいけないことは「ダメッ」とはっきり、きっぱりと伝えたことで、行動が少しは止められるようになっているので、やる寸前に止めてやり、だめなことをしっかり伝えることが大事です。また、自分がやりたい、という主体者としての「自分」がかなりはっきりと現れわれてきた時期なのだと思います。それに対して、言葉の発達がまだゆっくりで、アンバランスがあります。他の子との関係では、たとえば、おもちゃを「かして」と言って持っていったとしても、Yくんには、「かして」の意味がわからないうちに、自分の遊んでいたおもちゃがなくなってしまった、と感じているのかも知れません。「ちょうだい」と身ぶりをつけて伝えていくことを、他の子たちにも話し、わかる言葉から関わりを広げ、さらにその中でYくんにも「ちょうだい」を確実にわからせていくことが大事なところです。

■月刊 発達教育より 一松 麻実子(発達協会)言語聴覚士

 

 

 

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