身辺自立の指導法

着替編

■着替−ズボンやパンツ・靴の履き方
 今回はズボンやパンツ・靴の履き方の練習です。バランス感覚なども必要で大変ですが、自分で履けるようにするにはどうしたらいいでしょうか。

■着替−かぶりのシャツ編
 自分から着替えようという気持ちがまだ育っていない子から、着替えようとしはじめたけれども前後の違いなどがわからない子どもへの対応法をご紹介します。

■着替編−注意が途切れる場合の対応法
 子どもに着替えを教える時によく聞かれるトラブルへの対応法です。視線がさまよう、常道行動をする・・・などといった場面でどのように子どもの集中を高めていくのか。こまかなステップでの対応をお伝えします。

■ 着替編−4つのポイントとは
着替えを教えていくときに工夫が必要となる場合とは何か。子どもの弱点となりやすいポイントを中心に解説します。

着替−ボタン編
手元を見ない、できなそうといわれていた子も「できる」ステップがあるとけっこう一生懸命やってしまうのです。チャレンジする感じの身辺課題です。

■着替−くつした・前開きシャツ編
はだしで過ごすことの多い保育園の子の場合、意外と靴下をはく機会がないこともあります。「将来の必要」を見通し、意識して機会をつくることが大切です。

 


■着替−ズボンやパンツ・靴の履き方

ズボン・パンツ
ソ 道具立て

 ズボンは、初めはゴムの半ズボンがよいですね。ジーパンやホックのズボンは、一人である程度はけるようになってから。
 パンツは何でもOKですが、キャラクターのプリントが前後の目安に使えるかもしれません。女の子では、小さな飾りがゴム部分についているものもありますね。

タ 練習
 自分でパンツを持たない子には、親指をゴムの下に入れ込むようにして持たせ上から大人が親指中心に押さえます(図1)
 手元に注意しない子に「動きを教える」場合は、手を強くぎゅっと持ってしまいます。すると圧迫感をおぼえてはっとします。ここで「はくよ!」と声をかけながら動かし始めます。大人の肘で体をはさみながら姿勢を整えます。
 足を入れる動作も同じで、足をぎゅっと肘で抱え込むと伸ばしたくてパンツの口にシュっと通ります(図2)
 力が不十分で自信のない子には、指をゴムにからめながら支えるような、つつくような刺激で上げさせます。
 小さいうちは、座って足を入れる子も多いですが、将来的に脱衣場や土間で座り込むことのないように、早めに立ってはく習慣に切り替えます。
 お尻の部分が残る子がいます。股の所まで上がっても親指をはずさせないで、お尻の方に手を回して上げる動きを教えます。 うまくなってきたら、上げながらシャツのすそを入れる手の動きも身につけたいもの。

チ トラブルシューティング
◎片足立ちができず立ってはけない
 3秒ぐらい片足で立てれば少しの支えで立ってはけます。うしろから支えると重心移動など自然な形を作りやすいのですが、よりかかりや視線のずれをつかみにくいところがあります。
 前から手を持って支えると、足の上げ方や持つ位置など本人の勝手がわかりにくいのですが、視線を把握しながら手によりかかる度合いを調整しやすいものです(図3)
 保てそうなのによりかかる子には、重心をかけてきた所で力をさっと弛めると、あわてて自分で支えようとふんばります。
 片足立ちが一秒ぐらいの場合は、壁などによりかかりながらはく方法を試してみます。体のどこでよりかかればよいか色々と探ります。つま先をわずかに上げてはき口が通るとエイヤと足を上げてはく子もいます。
 立ってはけると次の行動に移りやすく、機動力が上がります。

くつ
ソ 道具立て

 初めは上ばきにはくような、はき口の大きいものが足をいれやすいでしょう。足の甲が高くてつかえてしまう場合は、横に渡してあるゴムに切れ目を入れるか切り取ってしまいます。
 かかと引き用に布でリングをつけます(写真1)。引っ張る指を立てにくい場合はビーズをつけ、そこを握って引くようにします。

タ 練習
 立ってはくことを考えます。足元に注意を払わない場合は、爪先を強めにつついて注意を向けさせます。支持足に重心をかけ、はくべき足を上げるように促します。はき口で動きが止まったら靴の爪先を押さえながら、子どものかかとが抜けないように押さえます。前へ行く以外に足の動きを出させないようにしてしばらく待ちます。待っても動き始めなければ「はくよ」とかかとを前へ進めます。脚が突っ張っている時は、かかとを少し揺らして動かします。
 足が靴の中に十分進んだら、かかとのリングを引く番です。足が持ち上がる子は靴を手のところまで上げてリングを引けばよさそうです。足を上げない子は、中腰でリングを引く形になります。重心を軸足にかけるか壁によりかかりながらリングと共にかかとを持ち上げてかかとを入れます(図4)。リングを持つ指が離れないように手伝います。力がかかりますから痛くないようにソフトなリングがよいのです。
 「かかとを入れる」のだとわかれば、リングを取ります。だんだんと人差し指でかかとを入れ込む動きに置き換えていきます。

チ トラブルシューティング
◎左右が逆になる
 微妙な靴の内側へのたわみが見てとれないのかもしれません。(写真2)のように模式図的に合わさる様子を見せたり、(写真3・4)のような靴の組み合わせで正否を判断させたり、実際に何度も靴をランダムに置いて正しく直させるようにします。
 見分けがついても癖になっている子が多いので、湾曲のはっきりした変形しにくい靴で足の感覚に訴えるのも必要でしょう。

 

 


■着替−かぶりのシャツ編

●身につける
 かぶりのシャツを自分から着始めない子には、頭からかぶせてしまい、モゴモゴしている中で袖を示しつつ脱いでしまわないようにすそを押えておくと、頭と腕を通して着るようになります。
 「自分で着る」とわかってからの課題は服の前後を区別する事です。服のえりぐりやプリント、首のタグなどで見分ければよいのですが、そうした手がかりに気付かず、見るポイントがつかめない場合は、手元から始めます。

●道具立て
 指さし・手さしができる頃に教え始めます。服の後ろ側のすそにマークをつけます(図1)。すそ中央に1つか、中央から10cmぐらいずつ離して2つつけます。「1つマーク」は目で探すことを狙い、「2つマーク」は手元を見ない子で、手で探らせる事を狙うといえましょう。ここでは、「1つマーク」の使い方を説明します。
 マークは、子どもの目が行きそうなものがよいです。ボタンやカンバッヂはインパクトがありますが、ズボンの下にたくし込む服には不向きです。
 かわいいアップリケや子どもの園マークを縫い付けたり、名まえシールをアイロンでつけたりする場合が多いですね。少し大きくなった子でも「名まえ」ならば抵抗感が少ないでしょう。
 マークは下着を含むすべての服に必要です。さあ教えようという時にマークが無いと「また今度」続きで機を逸します。新しい服にも手軽に追加ができるものが便利ですね。

図1

 「マークは?」と促しても初めて聞く言葉なので上の空でしょう。指をとって「ここ」と指ささせます。手元に注意がいかない時は、ちょっときつめにギュッと押し付けるとハッとして指先を見ます。
 服を広げて「マーク」を指さす動きを作っていきます(図2)
指さしたらマークの両脇を持ってすぐ着る動きにつなげます(図3)。「指さし」だけして違うところから着てしまうのは困ります。
 また、せっかく前後を定めても着る途中で回してしまうと元も子もないので、できれば片腕を通してから頭をくぐらせたいのですが、すっぽりかぶる子が多いですね。回す癖がなければそれでもよいですが。
 さて、「マーク」は、いつも手元にあるとは限りません。すそをわざとぐるりと回し、はじにマークがちらりと見えるように置いて「マークは?」と探させます。さらにマークが見えないように裏側に回してみてすそをめくって探す動きを教えます(図4)
 マークを探すようになった子でも、たたんである服を渡すとえりを持ったり袖を持ったりする場合があります。その時は、形をよく見る練習を他方面でしつつ、当面はすそ側を渡していくようにします。

 自分で探せるようになったら、その後の展開としてマークを小さくします。点のような糸の縫い目を見つける子もいます。それをえりくびのほうへずらして、手元から離れても目安として見る事ができれば、服の形自体が見えてきているので、マークからの卒業も近いということです。
 なかには、あれこれマークを探すのは苦手だけれど、「背中」という言葉で服の大まかな形に反応できて着られるようになる子もいます。視覚的手がかりより言葉への反応がよくて、マークが使いきれないという方むけです。


●トラブルシューティング
A.指さしをしない  

人差し指を立てるという動作をしない場合、グーやパーをまねできるようなら、形を作りながら保つ練習をします(写真1)

親指の押さえがキーなのでそこを軽く押さえつつ曲がってくる人差し指をつつくように押し戻します。

お風呂タイムやバス待ちなどちょっとした時間に練習するとできるようになります。

「りんごは?」と聞くと手渡せるのに指させない子には、リンゴのカードをビニールケースにはさみ、上にシールを貼りそこを指でささせます(写真2)

「渡すパターン」だけでなく「指さすパターン」もあるんだよと伝えます。

 そんなの興味ないよという子には、ピンポン棒(写真3)のスイッチを押させると「ピンポン」とか「ぶー」とかいう音で喜びます。

そこまで行くとマークの指さしはもう近いところに来ています。

 

B.「マークは?」と言わないと探さない
 「マークは?」と言われて探すのが行動の一セットになっているので、それを、服を着る場面になったら自分でマークを探し始めるように切り替えていきます。
 「探す」行為はするのですから声かけのほうを徐々に省略していきます。「マーク」と言わないで「ハイ」とか全然違う声かけをしたり、無言で手を動かしてやったり。
 大人の方でも、「着替え」と「マークは?」と言うのがセットになっていて、つい声かけしてしまう可能性もあるのです。

■月刊 発達教育より 武藤 英夫(発達協会)臨床心理士

 

 


■着替編−注意が途切れる場合の対応法

 「シャツ着るよ」と前後マークを探すように促します。「指差称呼」で確認した瞬間に視線は、宙をさまよい仕切り直し、というように瞬時に注意が途切れてしまう子がいます。
 取り組むように本人に促してもなかなか進展しないので、ついつい大人が「はい、やりましょう」と介助することになります。でも介助が多いと自分でやる力はつかない、というジレンマです。
 注意の途切れ方も様々です。それぞれへの対応を考えていくことにします。

1.視線がさまよう
 何かしようとすると、視線がさまよいだす人です。「シャツを着る」「少し苦手な箸持ち」「前たてを開ける瞬間」など、ちょっと集中がいる時にブチっと途切れてしまいます。
 集中を支えるエネルギーが少ないのだと思います。「集中せねばならぬ」と「集中したくなる」の2本立てでエネルギーを補充することにします。

@集中せねばならぬ系
 刺激を遮断して手元のことに向けさせるか、逆に刺激を与えて手元のことを思い出させるというような関わりです。

●シャツを着るというような場面で視線がさまよってしまったら、まずはあらぬ方へずれた視線をさえぎるようにします。(写真1)
 そのことではっとして手元に戻る人も多いです。
 指を両目の間に向けて近づけていく「指ミサイル」は、つい出された指を見てしまうので、有効です。見なかったら、両目の間で「爆発」。するとびっくり。

●目にふたをされ、両目の間で「爆発」しても集中が戻ってこない場合、シャツを持つ手を上からギュッと握ります。手からの刺激ではっとして手元を見ます。

●それでも気づかない場合は、「ツボ」を刺激します。大人には気持ちの良い首の後ろや肩口、膝の三里などもむと目覚める人が多いです。目覚めた瞬間に動きを促しながら注意をつなぎます。

●全体的にボーとしているようでしたら、腹筋運動やスクワットをすることで、脳の血流アップを狙うと元気になる人もいます。

●以前出てきた「5・4・3・・・」という「カウント」を聞くと、はっとしてパタパタ動き出すのは、「カウントルール」になれている人。やりすぎると嫌がられますが。

A集中したくなる系
 本来なら子ども達の興味のある語り口で集中を促したり、次に楽しいことがあるという見通しで注意を引き出せればよいのだと思います。
 それが伝わりにくい人や興味の幅が狭い人には、つい前記の「集中せねばならぬ」と刺激をコントロールする関わりに走りがちです。
 実際、興味・注意が持ちにくい中で意欲を持たせるというのは、なかなか難しいものです。でも、自分でがんばってもらうためにも意欲で注意集中できたら、その方が良いですね。

●テレビや絵本を通じて、キャラクターや絵柄で好きなものがあると好都合。それを服のマークに貼り付けると途端に良く見る効果あり!?でも、そればかり見て次の行動に行かない人もいます。

●ホックをおなかの所で留めなさいと指示。見ないからできない、うまくいかないから一層見ないという悪循環にはまります。
ところが、手元で(写真2)のような用具でカチャリとはめることがわかると変わります。おなかの所でもよく見てはめるようになります。何をするかわかるから見るわけで、「わかる力」は、大きいです。(手元とおなかは、「同じじゃない」と感じる人には、ステップがいります。)

●手元を見ないけれど、頭にシャツをかぶせてモゴモゴやっているうち着られた!ほめられた!いい気分。これが記憶に残って、次もがんばるという風になればよいと思います。達成感から「できる注意力」もフィードバックされるように願いをこめてほめます。


2.視線が張り付く
 人が近くを通過すると視線が「自動追尾」になる人がいます。それで手元はお留守になり、張り付いた視線は、すぐには戻らず繰り返し促すようになりがちです。
 人ではなく、物に張り付く人もいます。換気扇やエアコンの室外機の羽根をずっと見てしまうとか、先に記したように好きなキャラがあると眺めてしまう人、絵カードで区別して欲しいのに、好きなほうだけ見ている人。

●視線をさえぎることや手元をトントン叩き、促すわけですが、どうにもまた、そこに張り付いてしまうようなら、刺激の人がいる場所、物がある場所から離れるという手段もやむをえないと考えます。ほとぼりをさましてから、張り付かずに手元に注意を戻す練習へ。

●あるいは逆に、「ずっと見ていなさい」という荒療治が伝わる人もいます。ずっと見ていると「飽き」が生じて、その「飽き」が行動を抑制するというわけです。でも、大人が先に飽きてしまう危険が・・・。


3.常同行動にはまる
 注意が途切れると手をパタパタ、スリスリ、ヒラヒラ、体をユラユラ、足をバタバタなど常同行動の世界に入る人がいます。
そこにふけってしまうと名前を呼んだり、視線をさえぎってもすぐには注意が戻ってこないので困ります。

●常同行動を止める理屈としては、それと拮抗する行動をさせて頻度を下げるということになります。手をヒラヒラなら手を使うこと、というわけです。でも、シャツを持つ途中で途切れてしまう人なので、すぐにはうまく事は運びません。拮抗する手立てがその場になくても常同行動自体を確実にしつこく抑えてしまうと減っていきます。ただ、他にすることのレパートリーが少ないと異なった常同行動に移ってしまうようです。
 結局、「やれることを増やす」ということです。常同行動の方に注意が流れる前にある程度、動きに助けを入れても「できるようにする」ことがよいのでしょう。

 

■月刊 発達教育より 武藤 英夫(発達協会)臨床心理士

 

 


■ 着替編−4つのポイントとは

 着脱を教える上で工夫が必要になるのは、次の四つの点で弱さを持つ場合です。

@ボディイメージ・粗大動作
 体表面の感覚や体がどこまで動かせるのかわかりにくいと、上衣を脱いだり着たりする時に戸惑います。特に前あきの服では後ろ手になるので、片袖を入れてグルグル回ったりしがちです。マナー面でも下着の裾を入れる時など「はみ出し」を見つけにくく難儀をします。
 個々に対策はありますが、見えない後ろの部分に気付かせ、手も回るようにするには、後ろそり(図1)という体操がよさそうです。怖がる子もいるので、「上を向くだけ」「台に手を付いて」と小刻みに教えます。感覚の弱さには、乾布摩擦や冷水摩擦・お風呂の中でのブラッシングなどで刺激するのがよいと思います。

図1 後ろそり

A形の認知・空間位置把握
 形を捉える力が弱いと服の前後や靴の左右を見分けたり、たたむときに服の形に広がっているかどうかわかりにくいようです。空間位置把握が苦手だとホックをかけたりオープンファスナーを入れ込むところで苦労します。
 見え方の弱さに対して教える側も実感しづらいだけに、対応はあれこれ試していくことになります。
 デスクワークで対応するものとして、はめ板(写真1)があります。形を見分けて穴にさっと入れられればよいのですが、がちゃがちゃと試行錯誤しながらかちっとはまる感覚で学んでいきます。示す穴は、丸→正方形→正三角形→他の形の順で、一つずつ、示すところから始めます。指先の操作性の弱さやあきらめが早いとはめられません。その時は、大人の指で穴を囲い、入れやすく誘導します(写真2)。
 空間位置把握が弱いと穴が多くなった時探せないのですが、「丸は?」と言うと探せる事があります。空間位置を手がかりに使うのは苦手でも言葉が手がかりになる子もいて、着脱場面でも「背中」「かかと」などがキーワードになってできる場合もあります。

写真1

写真2

B手指動作
 細かい指の動作は、先にあげたホックやオープンファスナーに加えてボタン・ひもなど道具系だけでなく、えり直し・裾入れ・靴下はき・服たたみなどで発揮されます。
 ビーズ通しで細かくつまむ動作を養い、角ハンガーなど洗濯バサミの開閉でぎゅっとつまむ力を養い、買い物の荷物持ちでしっかり握る力をつけていくなど、関連した手の使い方で手指を開発していく事にしましょう。

C手順
 服を全部脱いでまた着るという習慣はわかりやすいのですが、ゆくゆく更衣室などで着替える事を考えると「最小露出」になる手順で覚えて欲しいもの。そうなると上を脱いで上を着て、下を脱いで下をはく、という手順が出てきます。
 写真や文字の手順表を使える子もいますが、意味をつかめなかったり、示されたものをこれからするのにもう済んだと混乱する場合も出てきます。その場合、複数のかごに手順図を貼って衣類も入れて重ねておくという手立てもあるでしょうね。

 これらのうちからいくつかの技能を取り上げて考えていく事にします。
●ぬぐ
@かぶりのシャツ
 脱ぎ始めない子には、頭にすっぽりかぶせてしまいます。モゴモゴしだしたら脱ぐ方向に手伝いながらスポッとはずれて「よかった」と思わせます。
 「脱ぐ」意味がわかってきたら自分でさせていきますが、おおむね三通りの脱ぎ方があります。すそ脱ぎ(図2)・そで脱ぎ(図3)・えり脱ぎ(図4)です。小さいうちは腕が短く力もないので、すそ脱ぎになる子もいますが、裏返しになってしまいます。「裏返しを直す」というのも一つの技能ですが、「裏返し」の状態が分かるのには、しばらく時間がかかります。できれば裏返しにならない脱ぎ方を教えてしまいましょう。そこでそで脱ぎ・えり脱ぎがお勧め。太っていたりタンクトップの時はそで脱ぎは不利。肩が硬い・腕が短い時は、えり脱ぎは不利。という条件でどちらか選びます。注意点は、えり脱ぎでは、首を脱いだ後、そでを丁寧に引いて脱ぐ手順まで教えないと裏返しのまま定着しやすい事です。

図2 手をクロスさせてすそから脱ぐ
図3 そでを引いて脱ぎ始める
図4 えりを持ち上げて脱ぐ

Aズボン
 ズボンは立って脱ぎます。自分で脱ぎださない場合は手伝いながら下げます。バランスの弱い子も足元まで降りたら足を交互に上げるような「赤ちゃん脱ぎ」でもよいかと思います。
 片足立ちが数秒でもできるなら「赤ちゃん脱ぎ」はやめて、裏返しにならないようにすそを引っ張るか、かかとに手を沿わせて脱ぐように教えたいものです。


Bくつ
 バランスが弱い場合、座って脱ぐ子も多いですが、それでもつかまりながら立ち、かかとをはずして脱げるとよいです。座る習慣がつくと機動性で出遅れます。また、バランスの力も、立って片足を上げる機会が多いほどついていきます。
 これも片足立ちが数秒できたら、手を使わずに「つま先で反対のほうのかかとをはずす」か「かかと同士をこすりつけて」脱ぐやり方を伝授します。
 また、脱いだらたたきに足を置かないで上がる事を教えないと、足の裏が真っ黒になります。健常といわれる子も、意外とこれができていません。


■月刊 発達教育より 武藤 英夫(発達協会)臨床心理士


■ 着替−ボタン編 

 保育園にお迎えに行くと先生が「私のボタンをはめてくれたんですよ」とニコニコ。さぞや時間がかかってご迷惑をかけたのでしょうが、本人もやり遂げたという充実の顔。 チャレンジする感じの身辺課題です。 手元を見なくて、させてみてもうれしくなんてなさそう・できなそうといわれていた子も「できる」ステップがあるとけっこう一生懸命やってしまうのです。

●道具立てと練習
 ステップに応じて道具立ても細かく変化させたいのがボタン練習。 スタートは、ひも通しと貯金箱。

★ひも通しは、カラータワー(写真1)のようなものからステップアップ。固定された棒にリングをさす→ 大人が持って斜めになった棒でもリングをさす→ 自分で棒を持ってリングをさす。
 そこから棒にひもをつけます。「リング」は徐々に小さいビーズ系へ変化。「棒」も細めのひもへ変化させます(写真2)

写真1

写真2

 ひも先が硬めで長いとやさしくなります。ビーズも球だと穴がどこにあるかわかりにくいので円盤形や円柱形などがとりつきやすいです。
 ビーズをひも先に通した手は、ビーズを離してひも先に持ち替える動きになります。これに気づかない子にはひも先を揺らして持ち替えを促し動きを作っていきます。「シューするよ」と声をかけてもう片方の手も持ち替えてビーズを引っ張らせるようにします。 この持ち替えの動きがボタンはめと同じ原理です。

★貯金箱は、細長い穴に合わせて物を入れる練習です。大きな横向きの穴に文字積み木の向きを合わせて入れることでスタート。写真3のようなおもちゃも便利。横穴にものを入れる練習は、そのまま手首を回せば服の縦のボタン穴に対応します。
 縦穴にものを入れる練習は手首をひねる動きが難しく、ひっかかる子がいます。服の横穴ボタンを練習する前にトライするとよいかも。
 さらにダンボールとか弾力のある酒カップのふたなどに穴を開けて大きめボタンを押し込む練習をします。
 「ひも通し」と「貯金箱」路線がドッキングしたのがボタンひも通し(写真4) 穴を縦に向けてひもつきボタンを通します。これでボタンをはめる動きの基礎ができました。

写真3

写真4

 

★手元でボタンをはめる方が練習しやすいのですが、この時親指が上を向くのに対して、服のボタンをはめる時は人差し指が上を向きます(図1)。この違いを自動的に調整できない子もいるので、服ボタンへの取りかかりも早めに行ないます。また、服のボタン穴は縦の物がはめやすいのでそれから取り組みます。

★練習服の調整をするためにボタンひも通しセットを服にクリップで留めて子どもがはめやすい位置を探ります。(『穴』側も服につけられるようにちょっと細工。)(図2) この様子を受けて色々なタイプの練習服をオーダーしたいところです(写真5)


・ボタンホールは、持ち替えをする間、ボタンが抜け落ちないように糸やボンドで固めます。

・穴の形が崩れやすいので合わせの部分を丈夫な布(フェルトなど)で補強します。

・また、穴の近くをつまんで持てない子には、合わせを長く作ります。

・ボタンは、すべらないもので平らな形が良く、大きさは4cm〜2cmが初心者向き。

・ボタンの『足』は、4cm〜5cm程度と長く作ります。丈夫に作らないとすぐ切れます。

 

写真5

★この服でいざ練習。ひも通しから順にレベルアップしていると『穴に通す物』という手つきになっているでしょう。
 でも手元を見るかどうかは別。椅子に座ると見通しが悪いので立ってはめさせます。ふらふらするなら、小さなマットの上からはみ出さないように立たせます。少し苦労すればはめられる程度の練習服だと手元をちらりとでも見てがんばります。
 数回トライしても難しいとか逆にすぐにできるとかだと手元は見ません。微調整が必要なので練習服はあんまり立派でない方が良いかも。やれるようになったら練習服を徐々に一般の服に近づけていきます。合わせを小さめにするとかボタンの足を少し短くするとかです。

★はめる動作とはずす動作を連続して練習すると、右手は「はめよう」左手は「はずそう」とするようにボタンホールをはさんで両手でボタンを押し合うジレンマに陥る子がいます。はめたらしばらくおいてからはずす動きを教えたほうがよさそうです。

★練習服で『修行』しつつ日常の中でもボタンを入れていきます。パジャマのボタンを大きめに変えたり、お弁当入れやかばんをボタン開閉にしたり。『頻度』が味方。

■月刊 発達教育より 武藤 英夫(発達協会)臨床心理士


■着替−くつした・前開きシャツ編

●くつした
@道具立て

 スニーカー用のくるぶしぐらいまでの靴下は、はき口の大きいものもあり、はきやすいようです。(写真1)子ども用も市販されています。
 次には、かかとの色が他の部分と異なるタイプの靴下で少しゆったり目のものが良いです。手元マークのある靴下は市販のものでは見かけないですが、キャラクターが正面を向いているものはあります。でもそればかりはくわけにもいかず、必要なマークはつけた方がよさそうです(写真2)
 両脇模様やワンポイントの靴下は、手元マークを練習してくると逆に間違えやすく、そこを正面に持って来やすいので注意です。

 

A練習

 (1)かかとまで入れてやり、そこから引っ張らせる→(2)かかとの手前まで入れてやり、かかとを通させる→(3)つま先だけ入れてやり、そこからはかせる→(4)初めからさせる
 というようにゴール近くから練習する方法がわかりやすいですが、(4)まではスムーズにいく子も実はつま先が入らなくて苦労があります。
 こういう場合は、小指が引っかかりがちです。ルーズソックスのようなダボッとしたものでも引っかかることがあります。大人は、無意識のうちに足の指をすぼめて靴下をはくのですが、その動きが弱いのです。なかには、靴下をつま先にかぶせやすいように長年足指を反らせてはかせてもらった子もいるでしょう。足指が反っていると見事にはきづらいのです。
 ここでスニーカー用の靴下が便利です。はき口からかかとまでが近いので、左右に広げてもはき口がつぶれず、丸さを保っています。これでぐんとはきやすくなります。
 一方で、足指がすぼまらない子は、地面を踏みしめる力も弱いものです。手伝っての片足立ち(図1)や動作法で言うところの「ぽき」(図2)の姿勢でつま先で踏ん張る力を高めたいです。
 かかとを間違えずにはくには、手元マークがわかりやすいのですが、かかとの色の違う靴下でかかとの形に気づかせることも有効でしょう。つま先の糸目に注目させるためにそこを塗ったり名前を書くという方法もあります。

 こうした手立ても腿を横倒しにしてはくとわかりにくくなります。両腕の間に膝をはさむようにしてはかせるようにします(写真3)。膝が横倒しになる子も「ぽき」や片足立ちで床に手をつく「つる(鶴)」(図3)の体操、また、プールで歩くことなどが内腿にも力をつけ、膝を支えやすくします。
 靴下はパンツより片足で支える時間が必要ですが、10秒ぐらい片足立ちができるのなら立ってはきたいもの。

 

Bトラブルシューティング
◎靴下をはく機会がない

 保育園に行っている子の中に一日中はだしで過ごすため、靴下をはきたがらないし、はく機会が無いという場合があります。
 就学とともに他の子たちは靴下をはく生活にすんなり入っていきますが、この子たちは、経験した事がないと切り替わるのに時間がかかります。お休みの日の外出などでは、靴下の練習をしましょう。
 「将来必要になるけれど機会がなかった」それでできないという技能は、靴下はきに限らずたくさんありそうです。「将来の必要」を見通し、意識して機会をつくることです。


●前開きシャツ
◎練習

 ボタンの練習に登場する場合が多いのですが、前開きシャツ自体がうまく着られない子もいます。
 初めはデイバッグで練習してみましょう。
 ちょっとしっかりした紐のデイバッグをかつぐことが初めはやりやすいです。腕を入れる範囲が広いのでコツをつかみやすいのです。その次が前開きのベストのような服。袖の穴がはっきりしています。
 片腕入れたら、大人はえりをたどって逆の袖をたぐりますが腕の短い子どもには難しいことです。そこで、少し体を横に傾けさせます。すると逆の袖や合わせが届きやすい位置にきます(図4)
 上下を間違える子にはえりのタグを持つか、あらかじめえりの端に印をつけていつも同じ場所を持たせると良いでしょう。
 大人は左右どちらからでも着る事ができますが、子どもに教えるときは体を傾ける方向や印のことを考えて、どちらから着るのか決めておいたほうがよさそうです。
 オープンファスナーは、先端を入れた後右手で引き上げようとするのがミスポイント。必ず引き上げるのは左手で行い、右手で押さえさせるようにします。
 大き目のファスナーでも先端を入れられない子には、Sカンのような金具を筒状のものに差し込むなど原理的に同じモデルを作ると伝わりやすいと思います。

 今年度も生活面の技能をめぐる話題を書いていくことになりました。今年は身の回りのことからお手伝いや家から足を踏み出した時のことも考えていくつもりです。

 

参考文献:講座・臨床動作学2「肢体不自由動作法」成瀬悟策編(2001)学苑社

 


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