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医療コラム7. 障害のある方の内科疾患について 苦瓜 洋子(医師)

2024.09.24

王子クリニックは発達障害や神経疾患で通院する患者さんと御家族の、内科的なcommon disease(日常的によく見られる疾患や症状)にも対応していますので、診療の一端を御紹介します。プライマリケアにも精通した小児科専門医及び神経小児科専門医、神経発達症の患者さんの対応に熟練した看護士2名と臨床検査技師の皆さんのチームに内科非常勤医2名が加わり診療にあたっています。身体に触れられることを嫌がる患者さんや慣れない環境ではパニックを起こす患者さんもいらっしゃいますが、通いなれた当院でなら検査を受けられる患者さんも少なくありません。血液検査、尿検査、レントゲン検査、心電図、超音波検査、脳波検査など、できることは限られていますが、個々の患者さんを全身的に把握することを心掛けています。

1.救急疾患

重度の身体障害や知的障害を伴う患者さんは誤嚥性肺炎など急性感染症を発症しやすい傾向があり、栄養状態の悪化や体力の低下を背景に深刻な状況に陥ることがあります。自分から症状を訴えられない患者さんの場合、「いつもと違う」「元気がない」と御家族が心配される時は、血液検査、レントゲン検査、心電図などを行い、肺炎、尿路感染症、急性胆管炎、急性腹症、心筋梗塞、肺塞栓などの急を要する疾患がないか鑑別し、外来で対応できるか高次医療機関に連携が必要かを迅速に判断しなければなりません。

2.体重減少

重度の自閉を伴うダウン症の患者さんや、知的障害がある自閉症の患者さん、多動の患者さんの中にはもともとやせている方もみられますが、徐々に、あるいは比較的急に体重減少や食欲不振がみられるときは何か疾患が隠されているかもしれません。甲状腺機能亢進症、糖尿病の悪化、関節リウマチなどの自己免疫性疾患や感染症などの合併がないかを調べ、原因を特定できないときは、さらに悪性腫瘍や血液疾患、内分泌疾患などを否定するために消化管内視鏡検査や画像検査を行える高度専門医療機関にお願いしなければならないこともあります。やせと食事摂取の低下は易感染や全身状態の悪化を引き起こすこともあるので、障害をもつ患者さんにおいては最も注意を要する症状だと思います。

3.肥満症

自閉症や発達障害の患者さんは、疾患のもつ特性から肥満になりやすいことが報告されています1)。当院にも肥満に伴う様々な健康障害を有する若年の患者さんがいらっしゃいます。性別にかかわらず、思春期以降にかなり急激に激しい体重増加がおきてBMI35~50の高度肥満を呈することがあります。学校を卒業した後は運動をする機会がほとんどなくなり、座位時間が増えること、過食や偏食など食行動の異常が顕著になること、睡眠障害や過敏、易興奮や攻撃性、うつなどが現れ、問題行動を緩和する為に服用する向精神薬の影響など、複数の原因が重なり高度の肥満を来すと思われますが、内分泌疾患などの二次性肥満の除外診断も念頭におかなければならないと思います。

肥満に伴う健康障害は、脂肪肝、糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、痛風、夜間睡眠時無呼吸、肺胞低換気、気管支喘息、静脈血栓、肺塞栓、悪性腫瘍、偽性黒色表皮腫、多嚢胞性卵巣症候群等々多岐にわたり、BMIが 増加すると冠動脈疾患や脳血管障害などによる死亡が増加することが分かっています2)。

肥満症および肥満に伴う健康障害の治療の基本は減量です。減量のための外科手術と食欲を抑制する薬物療法は保険診療として認められている治療もありますが、神経発達症を有する患者さんに対しての長期にわたる有効性と安全性の検討は行われていません。

家庭の場で減量を達成するのは容易ではありませんが、高度の肥満は体重が5%~10%減ると血圧や中性脂肪、血糖が改善するといわれます2)ので、巷間にあふれる高脂肪食や炭水化物の過剰摂取、糖質の高い飲食物を避けるだけでもリスクは少しでも軽減するのではないかと思います。

生活習慣の改善について御家族と御本人に指導し、個々の患者さんに合う漢方薬やガイドラインに則した高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症などの治療薬の処方を行い定期的な経過観察をすることが診療の主体になります。

4.肝機能障害

内科を受診する患者さんで頻度が高いのは、血液検査でAST、ALT、γGTPなどの肝機能異常が現れることです。肝臓の数値が悪くなり、肥満と高脂血症を伴う時は脂肪肝が疑われます。脂肪肝の確定診断には肝生検が必要ですが、実際の臨床現場では、まず超音波検査と血液検査を行い、超音波検査で脂肪肝に特有の所見が認められ、かつ、血液検査でウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎、ウイルソン病、胆石胆嚢炎、黄疸などが除外されれば、脂肪肝と診断します。アルコール摂取量が女性で1日20g以下、男性で30g以下の脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLDナッフルディ)と呼称し、飲酒が原因で起こるアルコール性脂肪肝と区別しています。アジア人はBMI30未満であっても内臓脂肪型肥満、インスリン抵抗性の合併が欧米より高く、非肥満NAFLDの有病率が高い背景になっているといわれます3)。NAFLDは肝の線維化が進展すると肝硬変や肝臓癌に進展するリスクがあるので、長期にわたる経過観察が必要です。一般診療所で肝の線維化を診断することは難しいので、罹病期間が5年以上の長期にわたれば専門医の診察をお勧めしています。

抗てんかん薬や向精神病薬を服用している患者さんに肝障害を認めた場合には、脂肪肝と薬剤性肝障害の鑑別が非常に難しくなります。抗てんかん薬や向精神病薬は安易に中止することができない重要な薬なので、小児神経専門医の指示を仰ぎ慎重な対応を要します。

5.甲状腺機能異常

甲状腺疾患はダウン症の患者さんに多くみられる傾向がありますが、ダウン症以外の患者さんでも体重増加や減少、不定愁訴、不整脈、肝機能障害、高コレステロール血症、高血圧、クレアチニンキナーゼ上昇などの血液検査値異常の背景に甲状腺疾患が潜在していることがあるので、触診で甲状腺腫がなくても、スクリーニングではTSH、FT4値を測定し、甲状腺疾患を見落とさないよう心がけます。当院でも先天性甲状腺機能低下症、橋本病、バセドウ病は頻度の高い疾患ですが、自己抗体が陰性の甲状腺機能異常やTSHとFT4、FT3の動きに乖離が見られ、診断フローチャートに当てはまらない病態5)も多くみられます。診断および治療方針に不明が生じたり、甲状腺がんや悪性リンパ腫が否定できない時、また思春期以前および妊婦のバセドウ病などの問題がある時は専門医療機関に受診することを勧めています。

6.高尿酸血症

高尿酸血症はメタボリック症候群や肥満に合併して多くみられますが、ダウン症候群の患者さんは肥満を伴わなくても尿酸排泄低下型の高尿酸血症を来たします。血清尿酸値の幼小児の基準は成人と異なるため年齢別の基準値に鑑みると、ダウン症候群の患者さんは幼児期から高尿酸血症が高頻度に見られるという報告もあります5)。 痛風の既往がない無症候性高尿酸血症の場合は、果糖・糖質を含む清涼飲料水の制限、肉や魚のプリン体摂取制限、アルコール制限、水分摂取、運動など生活習慣の改善が先決ですが、腎機能低下が疑われる場合は腎保護の目的で尿酸降下薬の適応があります。

従来は尿酸クリアランスを測定し、尿酸排泄低下型と尿酸産生過剰型に分けて薬剤を使い分けていましたが、強力な尿酸降下作用があり腎機能低下時にも減量せず使える新たな尿酸生成抑制薬(フェブキソスタットなど)が登場し、従来の尿酸降下薬の使用頻度は減りました。また近年は小腸から尿酸がABCG2というトランスポーターを介して便中に排泄されていることがわかり、腎外排泄低下型の高尿酸血症が病型分類に加えられました5)。

7.悪性腫瘍の早期発見について

開設30年を迎え、当院に小児期から通院する患者さん達もこれから中高年を迎えます。特に肥満症の患者さんでは、加齢とともに大腸癌、食道癌、子宮体癌、膵臓癌、閉経後乳癌、胆のうがん、肝臓癌など複数の部位の発がんリスクが増大するという報告がある2)ことを踏まえ、お住まいの自治体のがん検診を利用することも是非お勧めします。悪性疾患が疑わしい場合に、当院の患者さんの精密検査や治療を引き受けていただける専門医療機関との連携が今後はますます重要になると思います。

参考文献

1) 井上文夫 発達障害の肥満 京都女子大学生活福祉学科紀要16号2021年2月

2) 日本肥満学会編 肥満症診療ガイドライン2016

3) 日本肝臓学会編 NASH・NAFLDの診療ガイド2021

4) 浜田昇著 甲状腺疾患診療パーフェクトガイド 2014年改定第3版

5) 日本痛風・尿酸核酸学界編 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版 2019年